2018.08.16

「香りマーケティング」×ITでエモーショナルに人を動かす

ビッグデータとAIでターゲティング可能な香り演出

香り(アロマ)の演出を使った「香りマーケティング」という言葉をご存じでしょうか。2010年ごろから注目を浴び始めた香りを使ったブランディングやマーケティングプロデュースに、ITの技術を掛け合わせ、五感に訴える新しいプロモーションジャンルがうまれてきています。株式会社コードミー代表 太田賢司さんにお話をお聞きしました。

目次

人々の感情や気分に作用する「香り」の可能性

株式会社コードミーは、個人の好みにパーソナライズできるアロマミストのオンライン販売と、企業に対する香りを使ったブランディングやマーケティングの支援を行う企業。同社が提供するB to CサービスCODE Meeeは、ユーザー一人一人に合わせてアロマをパーソナライズするサービスです。同サービスは、得られた香りの「ビッグデータ」に基づく香りマーケティングを行っています。

――香りマーケティングとは何でしょうか?

太田

文字通り、マーケティング活動に香りの要素を含めることを言います。例えば、空間に香りを演出して企業やショップの印象付けをする手法はすでにあちこちで見られます。有名なところではマリオットホテルのような外資系ホテル、また、アバクロやシップスといったアパレルショップも実践しています。この香りの演出は、企業のアイデンティティを支えるブランディングの一環と言えます。そのため、ブランドイメージのための個性的な香りが使われるのも特徴です。

太田賢司さん
株式会社コードミー代表 太田賢司さん

――確かに、ショップに入るとすぐに気づく香りで、一度で覚える人も多いと思います。

太田

ブランディングにおける香りは、「これが●●だぞ」と印象に残るほうがいいのです。匂いと記憶がダイレクトにリンクするので効果的です。ただ個性的な香りであるがゆえ、万人の方に受け入れられるとは限りません。例えば、日本人は欧米人が好むような強い香りを苦手とする傾向があります。かつて日本で「ダウニー旋風」というものが起こりまして、独特な甘さが特徴的な香りの柔軟剤「ダウニー」が日本人に浸透していく中で、強い香りへの抵抗感は比較的少なくなっていったと言われていますが、まだまだ自然な香りを好む傾向は残っていると思います。

一方で、その空間に居る大勢の人を心地良いと思わせたいという香りマーケティングもあります。病院の待合室や大型商業施設、オフィスビルのエントランスなどのご相談を受けるケースが多いです。この場合は、人に心地良いと思ってもらい長く滞在させるのが狙いだったり、待合室などではリラックスしていただくのが目的です。

――リラックス効果があるイメージはありますが、香りで気持ちや行動を変えられるということですね。

太田

はい。特定の場所の滞在時間を延ばすだけでなく、もっと買い物をしたい、などと購買意欲を上げる効果が期待できるような香りもあります。また、香りによって若者を集めたい、年配層を集めたいなど、特定の世代に向けて任意の行動を促すといった効果も期待できます。そうすると、店頭やイベントでのブース集客などにも活用が出来たりします。

香りが記憶を呼び起こす「スイッチ」になる

――具体的な香りマーケティングの活用例を教えてください。

太田

日本の高級リゾート施設へ、20~30代の女性にも来てもらうための香り演出に取り組んだことがあります。そちらの施設は食事もおいしく部屋もきれいで人気があるのですが、なかなか狙ったターゲット層のお客様がいらっしゃらないという課題がありました。

私たちが持っている香りの趣向ビッグデータでは、「ある性別や年代の層が」「一定のエモーションになる」ことを期待する香りを提案することが可能です。この高級リゾート施設では、20代~30代の女性がポジティブな気持ちになるようなアロマをオリジナルで調合し、それを使ったアメニティグッズを開発しました。

――ターゲット層がそこはかとなく「あのホテルは良かったな」、という気持ちになる……。それは面白いですね。

太田

嗅覚は五感の中でも感情や記憶にダイレクトに繋がっている要素の強い原始的な感覚であると言われていまして、気分に影響したり、感情に訴えかけることが期待できます。

記憶に結びつけるという観点では、ファングッズに香りマーケティングを活用した事例はユニークです。ミュージシャンの楽曲テーマと本人のイメージ、ファン層の年代や好みを考慮した上でオリジナルアロマを作り、ライブ会場で使うと同時にグッズ販売したところ、予想以上に好評でした。

ファンの声を聞いてみると、「これで、いつでもあの日のライブのことが思い出せる」というようなコメントがあったのが印象的です。

エンタメ分野については、ほかにも『羊と鋼の森』では、香りのプロデュースをさせていただきました。原作の小説や劇中で「森の匂いがした」というセリフのシーンがあるのですが、それに合わせて映画の舞台となった北海道の森で実際に取れる精油をベースにした調合アロマの演出で、ご好評をいただきました。そのほか、クラブや体験型のエンタメなどにも幅広く応用ができると考えています。

『羊と鋼の森』

ビッグデータ解析でターゲティングした香りの提案が可能に

――アロマに一定のリラックス効果や覚醒効果などがあることは知られていますが、年代や性別の好みなど、ターゲティングを絞ったアロマ演出も可能なのでしょうか。

太田

CODE Meeeのオンラインサイトでは、性別や年齢、毎日の生活のなかで、なりたい気分(気分を上げたり、リラックスしたいなど)やイメージする色など、簡単な質問に答えるだけで、自分専用のミストスプレーが購入できるサービスを行っています。そこで得られた香りの趣向に関する情報を、弊社では香りのビッグデータとして蓄積・分析し、香りマーケティングに活用しています。

太田賢司さん
CODE Meeeのパーソナライズアロマ
太田

CODE Meeeは、これまでアロマを店頭で選ぶことに抵抗があった潜在層に向けて提案したもので、発売以降、大変コアなファンが増えています。このサイトに登録いただくユーザーの趣向データを蓄積し、IBMのSPSSという統計解析ソフトで香り趣向の分析を行っています。

――香りの趣向には属性によって、どんな差が出るのでしょうか?

太田

分かりやすい例では、性別、年代で香りの趣向が大きく異なります。ある香りに対して好ましいと考えるか苦手と考えるかの割合は、年代によってまったく違うという分析結果が出ています。
時間ごとに違う香りを演出することで、時間ごとに違うお客様を集めることが出来たりするかもしれません。

CODE Meee データ例
CODE Meee データ例a                    CODE Meee データ例b

 

――こういったデータを使うことで、ターゲット層に沿った細やかな香りマーケティングが可能になるのですね。

太田

はい。従来は香水や大手コスメ・トイレタリーメーカーを含めて、トレンドや社会背景などから、お客様が求めている香りの傾向を一方的に解釈して商品として提供する流れが主流でした。それゆえ、早いサイクルで好みが変化していく香りのトレンドに、柔軟に対応できないというのが課題のひとつでした。

今後は、ユーザーの好みを直接得られるようになることで、さらにリピーターによるフィードバックも可能になるため、本当に一人一人のお客様が求めている香りをリアルタイムで更新しながら提案することが可能になります。

――香りのレコメンドはサイトのアンケートだけで決まるのでしょうか?

太田

まだ、サービスのリリース前なので詳細はお伝えできませんが、人工知能のWatsonを活用した新たな香りのレコメンドシステムの開発を進めています。これにより、ユーザーのパーソナリティーやライフスタイルに適した香りがモダンな形でリコメンドされます。

香りの趣向は個人差が大きく、みんなが好きという香りは基本的にありません。しかも、嗅げばすぐにわかるのに、言語化ができていません。そんな中、個人の生活や好みの情報が多くインプットできれば、香りのパーソナライズもさらに細かく可能になっていくと考えています。これまで、香りをデータで記録するということはされてきませんでしたが、一人一人の香りの記憶をプロファイルできる。そうすれば、思い出や大切な人の記憶も香りと一緒に保存したり、想起できるようになるでしょう。

香り演出で会議や勉強が効率アップできる!?

――香りの利用で効果が期待できる場はまだまだありそうですね。

太田

エンタメやブランディングはエモーショナルな領域に働きかける香りのマーケティングですが、今後強化したいと私が考えるのは、ファンクショナルな領域での香り演出です。例えば、働く場や教室など、効率や機能性が求められる空間の香り演出です。

会議室にポジティブな気持ちやフレッシュな爽快感を演出する香り、集中力や学習効果の向上が期待されるなど、すでに試験的に導入させていただいて定量的な結果が得られているケースがあります。

太田賢司さん

――企業の価値としてもオフィス環境に香りを取り入れて仕事が前向きに進むようにするというのはとても良いですね。

太田

ストレス軽減や働き方改善など社会的にも意義がある取り組みだと思いますし、アロマディヒューザーの導入は低コストで場所も取りませんが、確実に環境改善になると考えています。

――香りマーケティングを実施する上で、気をつけるべきことはありますか?

太田

日本人は基本的にライトでほのかな香り、ナチュラル志向の香りを好みます。欧米人が好むような、例えば強く重たい香りはミスマッチを起こしやすいので、そこは気をつけるべきですね。個性的な香りを求めるあまり、不快な思いをさせないように意識していきたいですね。

嗅覚など、五感を利用したマーケティングが注目を集める背景にあるのは、テクノロジーの進化により、ユーザーの好みやリアクションを細やかにキャッチアップできるようになったこと、「感覚」というあいまいな要素に関して、ビッグデータ分析に基づいた精度の高いユーザーへのレコメンドや提案ができるようになったということが大きそうです。

香りは、生活者の行動に影響を与える効果を期待できるだけでなく(購買行動や集客など)、記憶や感情と結びつけることで継続的にブランドや商品について思い出してもらう「きっかけ」にもなります。

空間演出だけでなく、商品開発にも活用できそうな「香りマーケティング」に今後とも注目です。

Written by:
BAE編集部