2018.11.27

「爆音映画祭」から見える体験型コンテンツの可能性

作品への圧倒的な没入感で、20代女性を中心にリピート

映画ファンでなくとも、「爆音映画祭」という言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。爆音上映 とは、音楽ライブ用の音響機材を使って極上の音響と音量で映画上映する鑑賞方法です。全国のシネコンで不定期にツアー上映されているこの企画は、熱心なフォロワーが続出する長期ヒットとなっており、まつもと市民芸術館(12月7~9日)、MOVIX京都(12月13~17日)での開催も予定されています。この企画の仕掛け人である樋口泰人氏に、なぜ爆音映画祭が人を惹きつけるのか、その理由を伺いました。

目次

最初は熱心な映画ファンに向けたニッチな企画のはずだった

——「爆音映画祭」を企画したきっかけについて教えてください。

2003年の秋に、アメリカのロックを代表するカナダのミュージシャン、ニール・ヤングが来日公演を行いました。その記念に、東京・吉祥寺のバウスシアターでジム・ジャームッシュが監督したニール・ヤングのライブ・ドキュメンタリー映画「イヤー・オブ・ザ・ホース」を、バウスシアターにあったライブ用の音響機材を使って上映したんです。バウスシアターは映画館でありつつ、ライブや演劇もできる会場で、機材が揃っていたんです。だったら、それをもっとしっかり活用して、映画をライブ以上に面白く見せられないか、ということで企画したのが爆音上映の始まりです。

——最初は音楽映画でスタートしたんですね。

はい。音楽映画なら、きっと演奏用のアンプで聴いたら気持ちいいだろうとは想像できますよね。じゃあ劇映画もやってみたらどうか、ということで2004年の5月にオールナイトの4本立てでやりました。このときは「イヤー・オブ・ザ・フォース」「デッドマン」「クンドゥン」「ストレート・トゥ・ヘル」でした。

(左)爆音映画祭の拠点となった東京・吉祥寺のバウスシアターでの上映チラシ(2010年)、(右)今年9月に初開催した愛知県・三好での上映チラシ

——BGMや音楽が良い映画をセレクトされたのですね。

最終的に一番面白かったのはダライ・ラマ14世の半生を描いたマーティン・スコセッシ監督の「クンドゥン」という映画でしたね。音楽だけでなく、お経や、風、馬の走る音が新鮮ですごく面白い。爆音で上映すると、観た人から「まるで編集しているときの監督の頭の中に入ったようだね」と言われたのが印象的でした。

——爆音上映の一番の面白さはなんでしょうか。

聞こえてくる音が変わるだけで、観ている作品は同じなのに、観え方が変わる。それまでとは映画との付き合い方が違ってくることだと思います。観た人からは「知っている映画なのに、いままでと違って観えた」という意見が多い。これは体験してみないとわからないことなので、ぜひ確かめてほしいです。

観るだけでなく、身体に飛び込む「音」が映画への没入感を増幅する

——その後、映画祭の拠点となっていた吉祥寺バウスシアターが閉館したため、今度はロードショーとしてシネコンで復活し、それがまた人気を呼んで、いつのまにやら全国へ展開するまでのブームとなりました。

丸の内ピカデリーとローソンエンタテインメントさんが行っていた「シネ・ロック・フェスティバル」で何作品かを爆音上映した経緯から、「うちで爆音をやりませんか?」というオファーをいただきました。そのときの評判がやはり良くて、現在の全国のシネコンで展開するという流れになりました。それ以外にも、地方団体からご依頼をいただいて私が独自に企画・運営するタイプの上映と、いまは二系統で爆音映画祭を展開しています。

——熱心な映画ファン向けの企画がシネコンでも大人気というのは、驚かれましたか。

そうですね。シネコンでは、バウスシアターの頃とは観客の男女比が逆転して、いまは7、8割が女性、しかも20代から30代の方たちが中心です。こちらの作品のセレクトは、ローソンエンタテインメントさんと上映する劇場が中心になって決定しているのですが、現状で人気なのは「グレイテスト・ショーマン」や「レ・ミゼラブル」「ラ・ラ・ランド」といった通常上映でも大ヒットしているミュージカル作品や、歌が特徴的な作品です。人気の理由はシンプルで、“歌や音楽が楽しめた”ということです。とくに、ミュージカル映画の場合は、出演者が目の前に立って耳元で歌われているように感じるという評判が多い。心地の良さと臨場感が、多くの人に伝わっているのではないかと思います。

それから、こういったハリウッド大作の場合は、音楽の持つ力が単独で迫ってくる感じがありますね。それによってダイレクトに登場人物たちの心情や感情に触れさせてくれるのでしょうね。爆音で鑑賞することで、いままでにないほど作品に浸ることができた、という感想は多いです。

吉祥寺バウスシアター時代の爆音上映のスピーカー

——映画作りにおいて「音」の重要性は増しているのでしょうか。

サウンドデザイナーという役職が出てきたのが、ハリウッドで15年前くらいからだそうです。「羊たちの沈黙」なんかはそのルーツなのかもしれませんね。いま海外映画は、マスタリングの時間に数ヶ月とか半年くらい掛けることも多く、映画監督はサウンドデザイナーに多大な信頼を置いて音作りを進めています。最新の技術では、環境音をカットせずに雑踏の中でも自然に話している声が聞き取りやすいように処理するなど、技術的にも進歩しているそうです。

爆音上映では、大きな音というよりは、そういう音をいかに気持ちよく聴けるか、最終的には自分の身体が喜ぶ音になるか、嬉しくなってくるような音になっているかということを意識しながら音の調整を行っています。

スマホの普及が相対的に劇場鑑賞の価値を高めた

——ここ数年、「爆音映画祭」のほか、4DXやiMAXなどの体感型シアターが話題となるなど、映画館ごとに個性ある上映方法が増えたことで、映画館に足を運ぼうという機運が高まっているように思います。この傾向をどう思われますか。

オンライン配信動画で映画が観られるようになったおかげだと考えています。映像作品を手軽に観られるようになったことが、映画館に向かわせるきっかけになったと。24時間好きな場所で好きなだけ、さらにいえばYouTubeをちょっと検索すれば無料でも面白い動画が楽しめる。そうやってカジュアルに映像コンテンツを観る人が増えたからこそ、逆に、「スマートフォンの画面で観ているものを映画館の大きなスクリーンで観たらどんなにすごいだろう」と想像できるようになり、映画館の価値が高まったんだと思います。

似た経験がありまして、昔、レコード業界が、洋楽新作のCDレンタルを発売から半年ほど禁止にしたのですが、そこから日本での洋楽人気が下火になってしまいました。多くの人がそのコンテンツを体験できるチャンスをなくすと、業界全体が沈んでしまう。だから、いまの映画館人気は、オンライン配信に連動していると思うし、作り手側にとってみてもいいことではないかと思っています。

——自宅でも手軽に楽しめるからこそ、スマートフォンでは味わえない劇場ならではの体験を求めるようになったんですね。また、「爆音映画祭」のみならず、「応援上映」「絶叫上映」のようにユニークな取り組みによって、これまでの映画ファンとは違うタイプの熱心な観客が増えています。その裏にあるニーズや楽しみとは何なのでしょうか?

ここ数年、映画人口を考えると全国で多すぎるくらいにスクリーンの数が増えています。すると、映画館側もいろいろと工夫しようということになって、我々のような企画や体験的なものが受け入れられやすくなっています。コスプレ可能な上映イベントや、お決まりの場面で紙吹雪をまく「パーティー上映」など、観客が一体になって楽しむ体験型の映画上映はとくに人気が高いですね。

パーティー上映の様子
 

また、最近の傾向として、同じ作品を100回観ましたとか、今度の爆音映画祭は10作品観ます、とSNSで報告をする熱狂的なリピーターも増えてきています。これは昔の映画ファンとはちょっと違いますね。繰り返し来させてしまうものがあるのだろうし、観客も映画の内容そのものに加え、何度観ても毎回「一度きりの体験」を楽しんでいるところはあると思います。

——映画館に足を運ぶ若者に特徴はありますか?

「若い子がYouTubeしか観ない」というのは、私は嘘だと思っています。実際に爆音を全国ツアーで、観に来る子たちや、全国の映画館で「応援上演」などを楽しむ子たちは「いまはこれが趣味だから」と言ってかなりのお金を使っています。「爆音映画祭」に関わる中で驚くのは、広まったら広まっただけ、「初めて観に来ました!」という人が増えることです。どこか家で観ている映画には物足りなさを感じているのかなとも思います。

樋口さんは、爆音映画祭に来る若いお客さんに関して「映画オタクでもないし、文化系でもなくて『アウトドアでキャンプに行くように映画館に来ました』という感覚の子たちなのに驚きます」とも、語っています。

全国で上映イベントが開催されるなど、最初の上映から15年経って、ますます広がりをみせる爆音映画祭。最近では、「爆音」から発展して、絶叫できる、応援できる、サイリウムを振れるといった体験型コンテンツが派生し、新しいムーブメントを生み出しています。その人気の裏には、映画館ならではの音響によって生まれる没入感、新鮮な体験としてコンテンツを楽しむワクワク感へのニーズがあるようです。

Written by:
BAE編集部