2018.02.09

「緑化」から考えるこれからの空間デザイン

「緑視率」でわかった、緑と人の相関関係

世界の先端企業はオフィスに多くの植物を戦略的に配置しているのをご存知でしょうか? 日本におけるオフィス緑化のリーディング・ブランドである「parkERs(パーカーズ)」の梅澤伸也さんに、植物が人にもたらす影響や可能性を聞きました。

目次

“緑視率”とストレスの関係

緑のあふれた空間は、オフィスであれ、商業施設であれ、快適さや過ごしやすさ、癒やしなど、プラスの効果を与えてくれる印象があります。しかし、その相関関係は今まで非常にわかりづらいものでした。この緑が人に与える影響を科学的に分析し、実際にオフィス緑化事業に取り入れているのが、オフィスやマンション、商業施設などの緑を使った空間デザインと、植栽メンテナンスを手がけるparkERs(パーカーズ)です。

parkERsブランドマネージャー梅澤伸也さん

ブランドマネージャーの梅澤伸也さんによると、オフィスの緑化デザインが普及しない理由の一つとして、植物の設置による従業員のストレス軽減や、業績に与える効果の裏づけが、これまで十分に取れていなかったことが挙げられるといいます。これは科学的証拠(エビデンス)が乏しいというだけでなく、経営サイドの視点からすれば投資対効果(ROI)が数値で把握できず、効果測定や改善が行えない状態にあったとも言えます。

左)緑あふれるparkERsのオフィス。植物への照明の当て方にもこだわっているといいます。
右)デスクから伸びる植物の成長が、従業員同士のコミュニケーションを促進するそうです。
parkERsが社内に実験的に作った緑化空間

2013年7月から室内緑化デザインの事業を開始したparkERsでは、植物が人間にもたらす効果を科学的に実証することに成功しました。そして、その結果から導き出されたのが「緑視率」という指標とストレス軽減効果の関係性。

「緑視率の考え方は、建築工学の分野では「人の視界である左右120度と奥行き5メートルの範囲で緑が占める割合のこと」と定義されています。これが10〜15%の値のとき、ストレスが平均11%以上軽減することが実験によって初めて裏付けられたのです」(梅澤さん)

ストレス値軽減効果グラフ
最適緑視率

面白いことに、この緑視率は高すぎても低すぎてもストレス軽減の効果が上がらないといいます。「視覚の観点では、緑は多すぎるとかえって不安感やストレスを与えることもわかってきました。緑視率では15%を超えるあたりからその傾向が見られました。こうした数値化から最適な植物の量と配置を決める独自のアルゴリズムを開発することができました」

アルゴリズムで植物の配置を最適化

このオフィス緑化の効果を最大化するアルゴリズムと空間デザイン設計を組み合わせることで生まれたのが「COMORE BIZ(コモレビズ)」※というサービスです。「AI(人工知能)やアルゴリズムを用いることで、図面のレベルから植物の配置プランを数センチ単位で生成できます。これにより、オフィスのレイアウト設計段階で従業員1人1人のデスクからの緑視率を最適化できるようになりました。さらにデザイン性の高いプランターや植物の種類を選定することで、最大のパフォーマンスを発揮できるのです」

導入後も従業員のストレスの状況を把握して、効果測定のレポートを管理者と従業員向けにそれぞれ作成できるのも同サービスの特徴です。これにより、ストレス軽減の効果が可視化して、業務効率の低下を事前に防ぐとともに離職率を下げる効果も期待できるようになりました。

さらに、ウェアラブル端末やIoT機器を用いて脈拍などのバイタルデータを取り、クラウド上でチェックすることで、より精度の高い効果測定が可能となります。これにより企業の「健康経営」の向上につなげることも可能なのではないでしょうか。「植物は設置したらそれで終わりということはありません。私たちは人間も植物も育つ空間づくりを目指したいと思っているのです」

緑に期待される集客効果、商業施設での可能性

「世界一集中できる場を目指す会員制ワークスペース」として注目を集めているJINS(ジンズ)の「Think Lab」も「COMORE BIZ」の導入事例の一つ。禅寺を参考に、集中できる空間をさまざまな分野の企業とのコラボで作り上げたもの。ここでは植物をアルゴリズムに基づいて配置し最適な緑視率を確保することで利用者の集中力を高める要素の一つとして導入されています。

緑化の対象はオフィスに限られるものではなく、公共空間や商業施設、マンションやシェアオフィスなどにも応用が可能といいます。「基本的に、緑のあるところには人が集まりやすくなる傾向があると考えています。特に公共空間や商業施設では、無意識に働きかける可能性が緑化にはあると感じています」

「緑視率」によって、植物が人の行動に与える影響を科学的に可視化できるようになりました。今後は非接触型のIoTセンサーなどを活用してより詳細なデータを収集していくことで、ストレスの軽減にとどまらない植物の効果を明らかにすることができるかもしれません。そうなるとオフィスだけではなく、商業施設や公共施設などでも、用途や目的に合わせて「緑化」を戦略的に活用できるようになると考えられます。

例えば、これまでも緑化は集客効果があると考えられていましたが、その相関関係が科学的に解明されれば、より効果的に人を集めるための植物の種類や配置を分析することも可能になるでしょう。店内を回遊させる、来訪者の注意を喚起する、購買意欲をかき立てるなど、店頭でのさまざまな消費者行動を五感に訴え、緑によってデザインしていく、そんな未来も思い描けそうです。

parkERsが手がけた商業施設の事例①
Aoyama Flower Market TEA HOUSE 南青山本店
空間全体を包むように植物を配置することで、緑に包まれる心地よさの体感を高めています。それによりお客様の印象に残る空間づくりを実現しています。
parkERsが手がけた商業施設の事例②
CoSTUME NATIONAL | WALL Aoyama Complex 
青山にあるショップとバーの複合施設「CoSTUME NATIONAL WALL 」では、大規模な壁面緑化により非日常的な空間を演出することに成功しました。

海外に目を向ければ、すでにGoogleやApple、AmazonといったシリコンバレーのIT企業でも、オフィスに大胆に緑を取り入れる動きが加速しています。
「アジアでも人が住みやすい街を作るという観点で、シンガポールは国全体で緑化がとても進んでいますね。そうした世界の潮流からすると、日本国内における『緑化』に対する意識や知識はまだ立ち遅れているのが現状です。人類の長い歴史の中で、植物に囲まれて生活していない時期は近代のごくわずかな一瞬にすぎません。むしろ世界は、本来人があるべき姿に戻ろうとしているのかもしれません」

「植物はなんとなくいい」と、漠然と理解されていた緑の効果ですが、今回のように科学的に実証がされたことで、オフィスに限らず、公共空間や商業施設での緑化ニーズは増えていきそうです。さらに、AIやIoTなどのデジタル技術を掛け合わせれば、扱いの難しかった植物の管理もますます効率的になっていきます。 また、今回の取材で話を伺った「緑視率」は、視界に入る緑の量が指標となっていましたが、視覚だけでなく、匂いや、音などの五感の情報と人間の行動の関連性が解明されれば、売り場設計の可能性はさらに広がっていくでしょう。 これからの空間デザインに「緑視率」は大きなヒントとなりそうです。

※「COMORE BIZ」は、株式会社パーク・コーポレーション、パソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社、日本テレネット株式会社の3社で提供。
Written by:
BAE編集部