2018.06.25

インバウンド向けガイドサービスから見える新しいニーズ

時間を共有することで見えてくる、意外な価値とは

2020年に向け、国際観光の振興に注目が集まっています。いま日本を訪れる外国人観光客たちのニーズはどのように変化しているのでしょうか。旅行者に向けたガイド・マッチングサービス「Huber.(ハバ―)」を運営する株式会社Huber.の紀陸武史さんにお話を伺いました。

目次

日本における「シェアリングエコノミー」の可能性

近年増えている、マッチングサービスやシェアリングサービスは、ヒト(リクルート、出会いなど)、モノ(ファッション、フリマなど)、場所(イベントスペース、宿泊など)、移動(自動車、自転車など)といった日常生活におけるあらゆる分野に広がっています。

流行の要因として考えられるのは、スマートフォンの普及。いつでもどこでも気軽にネットへアクセスができるようになったことで、情報のやり取りが加速化し、マッチングがしやすくなったという背景が考えられます。また、若い世代においては、モノを所有することへの欲求が薄まり、「シェア文化」に抵抗が少なくなっていることも一因かもしれません。

家、自動車など様々なモノが対象になっているなかで「Huber.(ハバー)」は、外国人観光客と日本人のガイドをマッチングさせる「ガイドマッチング・プラットフォーム」として2015年からサービスを展開しています。

ユーザーは、ウェブサイトや専用アプリから日本でやりたいことや行きたい場所、どういう体験をしたいかなどを細かくリクエスト。それに対して「Huber.」に登録している日本人ガイドがプランと金額を提案します。通常のパッケージツアーと違い、生活者に近い現地の人間がガイドをしてくれるというのが特徴。お互いの距離感も近いので、旅行者もまるで友達に案内してもらうように旅を楽しめます。それにちなみ、Huber.ではガイドのことを「TOMODACHI GUIDE」と称しています。

また、Huber.のサービスは2人1組でガイドを行う「ペアガイド制度」を設けていることも特徴の一つとなっています。通訳案内士を持っていない人でも合法でガイドができるように、「通訳」と「ガイド」を分けたことがこの制度のきっかけでしたが、2人であるという安心感もあってハードルが低くなり主婦や学生なども気軽にガイドができるようになりました。

紀陸武史さん、佐藤祥さん
株式会社Huber.代表取締役CEO紀陸武史さん(右)、取締役 佐藤祥さん(左)

――「Huber.」を立ち上げたきっかけはなんでしょうか。

「2011年に、仕事で東日本大震災の復興支援に携わったのですが、それが原体験になっています。あの当時、日本国民の半数が巨大地震という共有体験を持ちました。そして多くの人たちが『自分は被災地のために何ができるだろう』と自発的に動いて地震被害の中でお互いができることをして助けあう『共感・共助』の力で復興を推進したという『成功体験』を得ましました。国民の半分が同じ『原体験』と『成功体験』を得た国なんて、世界にほとんどありません。だから、もし日本でイノベーションが起きるなら、『シェアリングサービス』じゃないのかと思ったんです。

そして、Airbnb(民泊サービス)に注目しました。2014年当時は、日本ではなかなか浸透していませんでした。
アメリカは家が広いので部屋を貸すことにあまり抵抗がないですが、日本は土地が狭く、Airbnbを理解するような若者たちはワンルーム暮らしの人が多いので、部屋をシェアすることができません。Airbnbはホストと交流するという体験が価値になっているので、これでは難しいですよね。
こんなに良いサービスなのにもったいない。どうしたら使われるんだろう?と思ったんですよね。そしたら「日本人は友だちになっちゃえば、人を家に泊める」って思って。だったら『ガイド』から始めればいいんだ、と思ったんです」(紀陸さん)

パキスタン人はスイーツ好き!? 「一次情報」の価値

――外国人観光客からの、Huber.に対する反応はいかがでしょうか?

「利用者からのレビューのオーガニックが7割を超えているという状況です。複数日利用している方も4割を超えており、満足度がとても高い状態になっています」(佐藤さん)

「満足いただいているのは、交流しながら旅を楽しめる点と、ニーズに合わせた多様なプランがフレキシブルに提案される点にあると思います。プランをみても、河口湖から富士山を見るプランや築地見学等のスタンダードなものから、例えばのんべい横丁で居酒屋体験など、ドローンを一緒に飛ばして遊ぶプランなども人気で、本当に多様なプランが自然に生まれてきています。

Huber.では、プランを選んだ後もチャットでガイドさんとやり取りをして、行きたい場所の要望を出したり、『おじいちゃんの腰がわるくて車椅子なんだけど……』といった相談をしたりすることもできます。フルカスタマイズされたプランを選ぶことができるのが大きなメリットではないでしょうか」(紀陸さん)

「支払いなどの事務作業も事前に済ませておくことで、当日のやり取りがなく、スムーズにストレスなく旅を楽しむことができるというのも大きいと思います」(佐藤さん)

——サービスを通じて外国人の方と接するうちに、気づくことはありますか?

「訪日外国人の潜在的なニーズが見えてきました。例えば、国連勤務のパキスタン人の方から5日間渋谷のガイドをお願いされたのですが、彼は旅行中ひたすらスイーツを食べ続けたんですね。話を聞くと、『パキスタンは治安の問題で安心して街の中を歩けないし、そもそもこんな可愛いスイーツがない、なんて渋谷はリラックスできる街なんだ』と思ったそうです。であれば、例えばパキスタン人の方に自由が丘のスイーツショップを案内するというツアーがあったら人が押し寄せるかもしれません。

また、オーストラリアでは豆腐が流行っているのだそうです。おそらくヘルシーという理由なのだと思いますが、揚げだし豆腐を見て『なんで揚げるんだ』と驚いてましたね(笑)。でも、食べたらとても気に入っていたようです。この場合は、オーストラリアで「揚げだし豆腐」を売り出したら、大ヒットするかもしれません。

訪日外国人客が何を求めているかなどの一次情報は、生かし方次第では、大きな価値を生むと考えています」(紀陸さん)

到着してから行き先を変える、自由な訪日外国人

――2015年のサービス開始から現在までの間で、訪日外国人のニーズに変化はありましたか?

「本当に旅の楽しみ方が多様化していると思います。2015年はアジア人が口コミで情報を得て、買い物目当てにやってくる、いわゆる”爆買い”が目立ちました。しかし最近では、せっかく海外に旅行に来ているのに近隣のスーパーで買い物してホテルで部屋飲みを楽しむという、意外な過ごし方をする人たちまで出てきています。

また、現地に来るまで予定を決めていないという方も多いですね。ネットの口コミを鵜呑みにしないで、現地の日本人から聞いた情報を元に行き先や行動を決めているようです。それこそHuber.のようなサービスを利用して。外国の人は長期にわたって旅行することも多く、旅の途中で興味が移り変わるんです」(佐藤さん)

「背景の一つとしてあるのは、ジャパン・レール・パス(バスや電車が自由に乗り降りできるJRが発行する訪日外国人向けの特別企画乗車券)の存在です。これさえあれば新幹線にも気軽に乗れてしまうので、日本人とは移動距離の感覚がまったく違ってきます。東京から京都は簡単に行ける距離と感じているんです。そのせいか、到着してから7割が行き先を変えているという話もあるんですよ」(紀陸さん)

――日本人の一般的な旅行とはだいぶ感覚が違いますね。

「いい意味での、ハプニングを楽しんでいる感じですね。SNSの登場によって、様々な情報が入ってくるし、自分たちでも情報を発信するようになった。そこで、旅にもより個性を求めるようになったと思います。

フレキシブルに動き、ニーズも多様な海外観光客に対し、受け入れる側も彼らのニーズに柔軟に対応していくことが必要になってきます」(紀陸さん)

日本人が気づかない「COOL」をいかに見つけ出すか

――Huber.は別府市や横浜市などの自治体と提携して、別府の温泉サイトのような取り組み(下記、参照)をしていると伺いました。国際観光振興における、地方ブランディングについてはどのようにお考えですか。

訪日外国人旅行客向け温泉特設サイト「ENJOY ONSEN」
Huber.が大分県とコラボして開発した訪日外国人旅行客向け温泉特設サイト「ENJOY ONSEN」

「地域プランディングも、個性を求められる時代になったと思います。ですが自治体側が観光スポットを用意し、巡る順番を設定するような従来の方法は、一方的な提案となってしまい、訪日外客のニーズを捉えきれないことが多いです。海外の方々が何を望んでいるのか、どういうところに喜びを見いだしているのか、それは日々変化し続けています。だからこそ様々な情報や新しい視点を積極的に取り込みながら、ニーズの変化に柔軟に対応していける仕組みが必要になると考えています」(佐藤さん)


「Huber.には、多くの訪日外客がプランニングのために自らのニーズを登録してくれます。そして実際にガイドに出て、彼らが何を感じ、何に感動しているのか、その現場を目にします。そしてゲストは、その体験のレビューをHuber.に登録してくれます。

それらを活用することで、Huber.ガイドは訪日外客の多様なニーズに自らのプランをアジャストさせながら、少しずつ変化・進化させていくことができます。だからこそ、Huber.は訪日外客のニーズを捉え続けることができるのだと思っています。
 
実は街の人が『当たり前』と思っていることに潜在ニーズがあるんです。例えば、ある外国人は墓石を見て『COOL!』と写真を撮りまくっていました(笑)。それは私たち自身では気づけない感覚ですよね。あれこれ頭で考えるよりも、実際に外国人と交流することで、潜在ニーズを知ることができます」(紀陸さん)

――日々の暮らしに本当は宝物が隠れているんですね。

「そうです。例えば、海外の人にとって温泉はお湯がメインじゃなくて、友人の前で服を脱ぐという体験が価値。彼らにとっては『これぞハプニング!』なんです」(佐藤さん)

ジャパン・レール・パスなど、フレキシブルに動ける環境が整い、SNSの普及により情報を掴みやすく、発信しやすくなったことで、日本を訪れる外国人観光客は決まり切ったパッケージツアーではなく、ハプニングも含めたよりディープで個性的な旅を求めるようになってきているようです。だからこそHuber.のような、多様なニーズに柔軟に対応できるマッチングサービスに人気が集まっているのでしょう。

日本人が予想もしないところに魅力を見いだすこともある。多様化するニーズを細やかにキャッチアップしていくことが、彼らを受け入れる側としては大事になっていきそうです。

Written by:
BAE編集部