IoT(Internet of Things/モノのインターネット)という言葉を耳にする機会が増え、音声認識サービスやウェアラブルデバイスも日常生活に浸透し、企業のビジネスモデルも急速に変化しています。IoTは私たちの生活にどのような変化をもたらし、マーケティングやプロモーション領域でどのような新たな価値を創出できるのか。IoT業界の識者の知見からそれをひもとき、プロモーションの未来を探ります。
第2回は、IoT施策の中で、有名な事例の一つ、ネスレのIoTコーヒーマシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i[アイ]」のアプリおよびクラウドの開発元である株式会社アプリックス 取締役 兼 CTO石黒邦宏氏に、IoT施策を始めるうえで参考となる成功事例についてお話を伺いました。

  1. 「消費財」はIoT成功パターンの定石
  2. 健康分野はIoT業界でもっとも有望
  3. ユーザーの好みやライフスタイルをIoTが分析

「消費財」はIoT成功パターンの定石

IoTの成功パターンはいくつかありますが、まず一つ目に挙げるのは消費財です。たとえば“水”のようなものとIoTはとても相性がいい。aquasana社のIoT搭載浄水システムは、アプリックスのBLE(Bluetooth Low Energy)モジュールが採用されていますが、この浄水システムはフィルターの交換時期になるとアプリのボタンをタップするだけで通販サイトに飛んですぐに購入できます。

また、キッチンシンクのメーカーで採用された浄水器用デバイスは、浄水器を買い替えたり改造したりすることなく既存の浄水器をIoT化できるものです。これまで工場や企業では専用線を通して部品の消耗度や補充のチェックをしていましたが、それがIoTによって家庭レベルでも可能となります。
このパターンのポイントは、商品を物販するメーカーから、サービス業へとビジネスモデルを転換できることです。台数をいかに売るかというビジネスから、継続的に注文が入ってくる業態になるのは大きな変化です。

健康分野はIoT業界でもっとも有望

二つ目はペット業界です。飼い主は昼間に留守にすることが多く、ペットが病気になったときには具合が悪くなってから気がつくので、その経過がよく分かりません。
そこでOur Pet's社が発売したのが「INTELLIGENT PET CARE シリーズ」。

こちらは、ペット用のベッドや水ボウル、エサ入れなどにセンサーやカメラを使うことで、ペットの睡眠時間やゴハンを食べた時間、トイレに行ったかどうかなどをチェックし、タイムライン上に行動履歴を残すことができます。
これがあると、普段からペットの健康管理ができるだけでなく、病院での診察時にも蓄積したデータをもとに的確な診断ができるようになります。

そしてペットの健康分野とくれば、人間の健康もやらない理由がありません。IoTの医療系計器を研究中の企業では、実際にIoT機器を着けていたことで心臓疾患の発作が発見できた例があったそうです。

Apple社でもアップルウォッチで特定の病状についての情報を医療機関と共有していますよね。平常時の人間の身体情報、行動履歴が大量に集まるということは人類の歴史上、前代未聞の状況にありますから、今後は、いままで治癒しなかった病気が治るようになったり、早期発見ができるようになったり、というケースはどんどん出てくるのではないでしょうか。もしかすると、平均寿命もIoTで伸びるかも、という人までいます。
シリコンバレーでも健康分野なら進んで出資したいという投資家がほとんどという印象です。

ユーザーの好みやライフスタイルをIoTが分析

三つ目に紹介するのは、ネスレの「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタi[アイ]」です。これはIoT搭載のコーヒーマシンです。

こちらのコーヒーマシンでは、水の量、コーヒーの濃さ、スチームの量などを好みで調節したり、ソーシャル機能で誰がいつコーヒーを淹れたか分かったり、ゲームとしてポイントが貯まる機能があります。

では、IoTでこういった情報を集めてどうするのかというと、ネスレとしてのゴールは「コーヒーを飲んでいる人はどんな人なのか」を知ることです。消費者の好みと、ライフスタイルを知ることによって、究極の顧客満足サービスとして「お任せであなたに合った品をお勧め」したいと考えています。

ユーザーがどんな味が好みなのかは当然分かりますが、データ分析から、気温が高くなるとコーヒーを飲まなくなる、といった本人も気がついていないことが分かるかもしれません。そんなとき、暑くても飲みやすい味わいのブレンドを勧めれば、暑いときにもコーヒーをおいしく飲んでもらえるようになるかもしれないのです。

いま消費者はお店に行くこと自体、さらには商品を選ぶことすら段々面倒になってきており、本人が予想もしなかった驚きや体験をもたらしてくれるような提案を待っている傾向があります。彼らが期待するようなきめ細やかなOne to Oneサービスの提供を、IoTのデータによって実現できる可能性は大いにあります。

――IoTによって、ユーザーはより自分に合った細やかなサービスを受け取れるようになり、企業は直接ユーザーとつながることで新たな製品や今までにないサービスの可能性を広げる事ができるようになってきています。
ユーザーの反応がビビッドに返ってくる、企業にとっては手ごたえと厳しさの両面ある時代に入ったのではないでしょうか? ありがとうございました!(BAE編集部)
 


石黒  邦宏氏

株式会社アプリックス 取締役 兼 CTO
北海道大学農学部を卒業後、株式会社SRA、ネットワーク情報サービス株式会社を経て、株式会社デジタル・マジック・ラボで UNIX ソフトウェアの開発、インターネット経路制御の運用に関わり、オープンソースウェアで経路制御を実現する GNU「Zebra」を開発。 1999 年 10 月、米国にて IP Infusion を創業。アプリックスにおいては、2015年の CTO就任時より、IoT時代に即した新しいビジネスの数々を推進している。