2017.12.06

「知らないうちに人助けをしている」ソーシャルな仕組みづくり

落し物をなくす——テクノロジーが社会の課題を解決する

テクノロジーとソーシャルの力で社会課題を解決できる、そんなサービスが注目を集めています。今回はクラウドやIoTデバイス、位置情報などの技術を使い、落し物が戻ってくる社会を目指すMAMORIO株式会社を取材しました。

目次

「落としもの」という社会課題を解決する

世の中から「落し物」がなくなると聞いたら皆さんはどう思われるでしょうか。そんなことは実現不可能と思われるかもしれませんが、スマートフォンやIoTデバイス、AIなどテクノロジーの急速な進化は、この大問題を根本的に解消しようとしています。

MAMORIO株式会社 代表取締役 増木大己さん

「ソーシャルの力で落し物が戻ってくる仕組みを加速させたい」と語るのは、MAMORIO株式会社の代表取締役 増木大己さん。「落し物ドットコム」という掲示板形式のポータルサイトを運営し、世界最小クラスの落としもの防止IoTデバイス「MAMORIO」を発表したことで大きな注目を集めています。

「もともとは、落とし主と拾い主のマッチングサービスとして落とし物ポータルサイトの運営などを行ってきましたが、スマートフォンやBluetooth製品の成熟化で、モノの紛失自体を防いだり、クラウド経由でみんなで探すというコンセプトが実現可能になったと感じました」

MAMORIOはわずか3グラムという小型のタグで、財布やバッグなど紛失しては困るアイテム、あるいはペットの首輪やデジタルカメラのストラップなどに取り付けられます。基本的な構造はBLE(低電力Bluetooth)を利用したシンプルなビーコン(発信機)デバイスで、一定距離(30メートル以上)離れると専用のスマートフォンアプリに通知してくれるというものです。

ユーザー同士の協力を利用したソーシャルな課題解決

こうしたBLEタグそのものはIoTが注目されるようになった以前からある技術ですが、電波を発信できる範囲は狭いため紛失防止には一定の効果があっても、それだけでは効果は限定的です。しかし、MAMORIOが画期的なのはここからです。このタグを付けたアイテムを紛失したことを持ち主がアプリ経由で申告すると、たまたまそのタグの近くをすれ違った他のMAMORIOユーザーのスマートフォンが紛失タグの電波を受信し、位置情報をタグの持ち主にサーバーを介して送信するというものです。この仕組みを同社では「クラウドトラッキング」と呼んでいます。

「スマートフォンはバックグラウンドでさまざまな電波を受信していて、そこにはインターネットはもちろんBluetoothやGPSの位置情報もつながっています。それを少しだけ落とし物で困っている人のために分けてくださいという感覚で捉えるとわかりやすいかもしれません。紛失タグの電波を受信した人はそのことに気づくことなく、落とし物の位置を発信してお知らせするのです。いわば、知らないうちに困っている人を手助けしていることになるのです」

この落とし物を通じ、さりげない善意でつながるコンセプトに共感するユーザーは次第に増えはじめ、クチコミやギフト需要で広まりを見せ始めているといいます。また、鉄道会社との提携によって駅の遺失物取扱所に受信機を設置したことで、毎日大量に運ばれてくる遺失物からMAMORIOタグ付きのものがあれば自動で通知されて、落とし物の発見率を高めることにも貢献しています。

「モノの位置が常に把握できていれば、『あれ、財布どこに置いたっけ?』などの不安を抱かなくなりますし、いざという時のために余計なモノを持ち歩く習慣もなくなり、人々は今よりもっと身軽に外出できるようになるかもしれません。」

「位置情報」データが生み出す新しい価値

MAMORIOが注目を集める理由として「既存のテクノロジーを利用した新たな試み」「ユーザー同士の協力を利用したソーシャルな仕組み」「モノの位置情報を利用したIoTビジネスへの横展開の可能性」が、挙げられそうです。
実際に彼らは、盗難保険との連携、軽度の認知症患者向けの見守りサービスなどがの新たな取り組みも行なっています。

「例えば、傘にタグを埋め込んでみるのも面白いかもしれません。紛失を防げるだけでなく、位置情報を利用して傘がいつどのように使われているのかというデータを集められれば、シェアリングサービスへとつながったり、傘メーカーの新商品開発のマーケティングにもなりますよね」

すでに被服ブランドとの商品開発も行われているそうですが、今後はさらに素材メーカーとのコラボなども可能性があると考えているそうです。

「日本では薄い素材にセンサーを編み込むなど、特殊加工が得意なメーカーが多数あります。着られるタグや体に貼れるシール型のタグなども作ることができるかもしれません。
そうなると、『この服、いつも着てますよね』と(笑)、新しい服の購入を促してくれたり、すれ違いのデータを活用して『いまこの地域ではこんな服が流行っていますよ』『周りの人とかぶらないように、こんな服を着てみては?』と、アプリが提案してくれる、なんてこともできるようになります」

「枯れた技術」がイノベーションを起こす

「数年前にiBeaconが登場した時に、マーケティング分野での活用としては店頭にビーコンを仕込んで通り過ぎるとクーポンやお店の案内が表示されるといったユースケースが多かったのですが、それってユーザー視点ではなく、あくまで開発者目線の発想ですよね。
IoTは無意識のうちにユーザーに利益をもたらしてくれるという世界が基本だと思いますので、知らないうちにタグがデータを収集して、何らかのアクションを起こしてくれるという仕組みがいいんだと思いますね」

また、増木さんは「枯れた技術」だからこそ、注目したいと語ります。
「中国ではQRコードを読み込んで決済するのが流行っていますよね。日本では『QRってガラケー時代の技術だろ?』と思われるかもしれませんが、どんな技術でも人々にとって当たり前の存在になった時に画期的なソリューションやイノベーションが起こると思っていますので、むしろこの分野はこれから盛り上がっていくのだと期待してますね」

-MAMORIOのサービスが「落し物をなくしたい」という利他的な視点に立脚し、実際に他ユーザーの協力によって落し物を探すという“人助け”の仕組みを取り入れているというのは、まさに世界をよりよい場所にしていきたいという、現代ならではの世の中の雰囲気にマッチしていると言えるのではないでしょうか。
さらに、使われているテクノロジーが、決して目新しいものではないというのも、注目ポイントです。既存の仕組みや機能でも、視点を変えることで、新しいサービスが産まれる可能性があります。テクノロジーを利用したマーケティングやプロモーションを検討する上で、これらの視点は大きな参考になりそうです。

Written by:
BAE編集部