2018.02.23

「みん食」が示す、当事者性の可能性

知らない人と食卓を囲むという新しいシェア体験の価値

外食、中食、個食など、食のスタイルが多様化する中、静かに注目を集めている「みん食」という新しい食形態。なぜ、人々は見ず知らずの人と食卓を囲むのでしょうか。その理由を探るべく、「みん食文化」を提唱する株式会社キッチハイクの共同代表である山本雅也さんにお話を伺いました。

「食」は人をつなげるのに人類普遍の最適な手段

「みん食」とは、複数の人で食卓を囲む新しい食の形態のこと。この考えに基づいて運営される「キッチハイク」は、料理を作る人と、料理を食べる人をマッチングさせるC2Cサービスです。毎月200〜300のPop-Up(キッチハイクで成立したイベント。以下「ポップアップ」)が成立し、のべ毎月1,000〜1,200人がマッチングしています。

「餃子ワークショップ&食べる会」「みんなでわいわい♪明石焼きを食べる会」など、料理する人がさまざまテーマでイベントをたて、参加者を募る。時には「みんなで○○を作ろう」のように、作る人と食べる人の垣根のないイベントもある

特徴的なのは、参加者のほぼ全員が初対面であるということ。「ひとり焼き肉」など、個人向けの飲食形態が登場する一方、なぜ人々は知らない人たちと食卓を囲みたいと思うのでしょうか。山本さんは「みんなで食べる体験」の価値をこう語ります。

キッチハイク共同代表、山本雅也さん

「人と人をつなげるのに最も適切な手段、それがみんなで食卓を囲むことの価値だと思います。キッチハイクを始める前に、文化人類学の本を読んでいて、面白い一節に出合いました。それは、知らない民族がテリトリーに入ってきた時、どうすればいいかという話なのですが、自分たちの食卓に招き、一緒にご飯を食べ、お酒を飲んで、交流を深める。そこから共同体が始まったんだ、と。これを知った時に、食は単に栄養を摂取するためのものではなく、人をつなげるためのものでもあるんだと、すごく腑に落ちました。そもそも昔はもっと、みんな一緒にご飯を食べていたし、今のように一人でご飯を食べられる状態というのは、地球上の歴史でいうと、ここ100年ぐらい。奇跡の賜物なんです」

「一回性」が生み出す感動と喜び

実際に山本さんは、前職を退職後に世界各地を旅しながら各国の家庭で晩ご飯をご馳走になるという挑戦を行い、「知らない人と食卓を囲む」行為の可能性を身をもって体感。それを誰でも体験できる仕組みにするため、「キッチハイク」を立ち上げました。
 

「今の世の中、『偶有性をデザインする』というものが求められています。すべてが最適化されて、予定調和な生活を送らざるを得ないような仕組みになってきているのですが、その一方で人間は、未知のものや予想できないものにワクワクする生き物ですし、そこに感動や喜びがあるんです」

ユーザー調査では、コミュニケーションの満足度を挙げる人が多い

実際に、リピーターの声を拾うと「出会う機会のない人に出会える」「家族や知り合いとは違う新しいコミュニティがある」といったメリットを挙げる人が多いようです。
 

「ポイントとしては、お店と違っていつでも食べられるわけではないということ。人々が集まって、盛り上がって、解散する。瞬間的に現れて、そして消えてしまうという“希少性”、 “一回性”の価値が魅力なのではないでしょうか。仮に同じ料理を提供したとしても、参加者が変われば同じ体験はない。何回、参加しても新鮮なんです」

30代ユーザーが多いキッチハイク。自分の生活を見直し、食への態度が成熟化してきている年齢だからだろうと分析

作り手にとっても、食べてくれる人がいるという環境は大きなモチベーションとなります。
 

「特徴的なのが、料理の上手い下手ではなく、純粋に自分が好きな料理を食べてもらいたいという気持ちが前に出ている人が多いことです。料理は自己表現の手段の一つ。もちろん、プロの料理人になるためのステップアップや、テストマーケティング的なユースケースもありますが、お店を出すことだけがゴールではないというのが面白いですね」

作り手と食べ手がフラットになる、当事者であることの価値

一方で、知らない人同士で食べるごはんと、通常の飲食店の違いとして、山本さんは「作り手と食べ手のフラットな関係性」も挙げています。

食の透明性が求められている現在だからこそ、作り手が目の前で調理法や食材のことを説明してくれる体験が、満足度を高めているそう

「キッチハイクには、感想などのコメントや写真を投稿する機能があるのですが、1,000件も投稿されるポップアップもあります。そして、ほとんどは感謝の声なんですよね。ネガティブなことを書き込む人がいないのは互いの距離が近くて、参加者みんなが現場を作っていく、当事者意識を共有しているからなんだと思います」

ポップアップ(イベント)ページを見るところから、キッチハイク体験は始まっている

提供する側、受ける側という垣根ができると、どうしても料理やサービスへの粗探しをしたりと、ネガティブな面が出てしまいます。評価サイトで飲食店が格付けされる時代だからこそ、作る人と食べる人が同じ「当事者」として食卓を囲む体験が新鮮で、喜びとして感じられるのかもしれません。

また、感想を書き込む、メッセージをやりとりするという、デジタルならではの仕組みも、サービスの価値を高めています。
 

「あくまで“みんなで食べる”という現場ありきのサービスではあるのですが、アナログだけでは、そもそも出会うことも難しいですし、つながりが途切れてしまいます。サイトを見て、作り手のプロフィールをみて、予約をして、メッセージのやりとりが始まる……食べた後は感想を書き込んで、またリピートする。デジタルとアナログが互いに補完し合っています」

地方自治体のブランディングの場に

「食材を提供してくださる方が、たくさんいらっしゃいます。今、私たちが力を入れているのが自治体さんとの取り組み。地域食材を使って、“食”で地域をブランディングするということをしています。昨年は徳島県徳島市で開催したのを皮切りに、5つの自治体と実施しました。徳島市とコラボした時は、10日かけて、10人の作り手さんが徳島の食材を使って、毎日違うオリジナルのポップアップを開催したのですが、一瞬で満席になりました」

インターネットの普及を通じて、人々は「個であること」「匿名であること」が容易となりましたが、現代は同じインターネットを通じてリアルな場で「つながる」時代へと回帰している印象があります。

その根底にあるのは、知らない人と出会う偶然性、一回しかないという希少性、さらに誰もがフラットであるという当事者性、そういった部分に喜びを感じる価値観が、「キッチハイク」のコアユーザーでもある30代を中心に広がっているということかもしれません。

なぜ、人々は知らない人と食卓を囲むのか。 リアルイベントにおける参加者の満足度を考える上で、キッチハイクの事例は大きなヒントになりそうです。


資料出典:「10,000 食 突破記念 みん食白書公開!」(キッチハイク)

Written by:
BAE編集部