2017.12.15

ネットモラルの専門家に聞く、SNS時代の企業リスクとその対策

いまだ認識されていないSNSでのコミュニケーション方法

企業と顧客をつなぐコミュニケーションツールとして、SNSは無視できない存在となってきています。一方で、SNSへの何気ない投稿が思わぬ事態を招くことも。ネットモラルに関する著書を持つグリー株式会社の小木曽健さんに、SNS運用で企業が気をつけるべきことを伺いました。

目次

企業のSNS利用は増えている

手軽に情報の発信や収集ができるSNS。誰でもいつでも始められる気軽さから、生活者だけではなく、企業の利用も増えています。小売業界の調査となりますが、ファッション・雑貨の卸/仕入れサイトを運営するラクーンが会員小売店を対象に実施したアンケート(2016年)によりますと、小売店の65%がSNSを利用したことで来客数は増えたと実感しているという結果も出ています。
確かに、従来のパブリシティに比べ、ユーザーと近い距離で情報の発信ができるなど、企業のSNS利用にはメリットも多くありますが、一方で、投稿をきっかけに思わぬ非難にさらされることも少なくありません。
企業にとってSNS対策は喫緊の課題といえるでしょう。

ネットモラル教育は小学校にも広がっている

今回、お話を伺った小木曽健さんは、「社会貢献チーム」という部署に所属して活動をされています。

「いわゆるCSR部門です。緑化活動などの一般的なCSRに加え、ネットや教育に特化した活動も行っています。例えば、2013年から続けている取り組みとして、千葉大学教育学部で、将来教員になる学生たちと一緒に、授業で活用できるゲームアプリを開発しています。学生が企画・制作した学習アプリで小学校の授業を行い、ゲームの力を教育に応用できる人材を育成しているのですが、それらのひとつである学習ゲーム「SHOW TIME!!」は実際にApp Storeで配信されています」

グリーのCSR活動の礎となっているのが、全国の学校・企業などで実施する、ネットモラルに関する講演活動。インターネットの正体やネットで絶対に失敗しない方法などを、どの年代にもわかりやすく伝えているとのこと。実際、ネットモラルに関する教育は社会全体に広がっているようです。

企業のSNSは常に100点満点を求められている

普段は個人のネットモラルについて話すことが多い小木曽さんですが、企業に関してもネット上のコミュニケーションリスクは変わらないと言います。そして、その対応策はまだまだ浸透しておらず、運用が確立している企業は非常に少ないそうです。

「名の知れた大企業だと、立派な運用体制があるんじゃないかと思われがちですが、近年は世界的な有名企業でも、SNSの誤爆が起きて話題になったりもしています。実は企業のネット危機管理体制って、まだまだ確立されていないのが現状だと思うんですよね。
とはいえ、模索しながらも対策は講じていかなければいけません。難しいのは、個人の場合と違って、企業のSNSコミュニケーションでは、常に『100点満点』が求められること。この100点には、「人を不快にさせない」はもちろん、その企業の印象をUPさせるような情報発信が求められます。まじめなだけの情報発信には「つまらない企業」という印象を与えるリスクもあるからです」

SNSでの主な失敗パターンとその対応策

とは言いつつ、企業のSNS対策に求められるのは特別なことではなく、当たり前のことを当たり前にやることだと、小木曽さんは言います。実はこれが徹底できている企業は意外に少ないそうです。SNS運用で意識すべき、最低限のポイントを教えていただきました。

誤爆対策

「例えば、企業の公式アカウントからプライベートな発言を投稿してしまうケース、その原因の多くはSNSアカウントの切り替えミスです。投稿専用の端末を用意し、1つの端末に2つ以上のアカウントを入れないといった当たり前のルールを作るだけで、リスクや運用負荷は軽減できます」

 

真意と違う内容で取られた場合

「SNSは文字数が制限されることもあります。少ない文字数では、思ってもみなかった誤解をされてしまうこともあるでしょう。あらゆる捉え方をする人がいる前提で、どのような指摘をされる可能性があるか想像を巡らし、それらに対して、ちゃんと説明できるか、答えられるか、予め確認、準備しておく必要があります」

 

謝罪のミス対策

「謝罪が新たな炎上の火種になることもあります。大抵、お詫びすべきポイントがずれているケースで『俺たちが怒っているのはそこじゃない!』というやつですね。誰が、何に対して、なぜ怒っているのか、これをしっかり理解することが重要です。また謝罪にあたっては、原因となった投稿の書き換えや安易な削除は避けた方が良いです。訂正するなら、取り消し線などで編集経緯がわかる形にしておいた方が誠実でしょう。何よりも、炎上に正面から向き合うことが重要です」

 

社員個人のプライベートアカウントからの飛び火

「たとえ社員の個人アカウントで、『※個人の見解です』と断りを入れた上での発信であっても、所属する企業・団体への批判は避けられません。できれば個人アカウントと同じタイミングで、会社としての見解・謝罪を発信した方が良いでしょう。当該社員へのペナルティ内容も開示することで、炎上をより迅速に鎮火できる場合もあります」

会社の体制として必要なこと

不測の事態が起きる前に、予防策として企業ができることはあるのでしょうか。

「企業のネット対策は過渡期にあたるため、これが絶対という正解はありません。だからこそ、ルールや基準、体制づくりに着手することが重要です。この企業アカウントはどんな人格で、何を発信していくのか等、できるだけ明文化したり、投稿前のチェックリストを作るなど、できることはたくさんあります。また炎上が起きた際は、1分でも早い対応が必要になりますから、炎上時の対応手順や、だれがなにを基準に判断するのか、というルール作りも必要ですね」

最後に、企業で管理をする立場にいる人の心構えについてもヒントをいただきました。

「もし予想もしないような方向で注目を集めてしまった場合は、とにかく慌てないこと。慌てることで判断を誤るケースも多いです。単なる失敗であれば、ユーモアをもって対応することで、逆にファンを獲得できる可能性もありますから、そういった意味でも、心の余裕は大切です。社内の上司、同僚のみなさんも応援してあげて下さい」

企業のSNSコミュニケーションに関しては、正解がないからこそ、企業が自ら答えを見つけていかなければいけないという現状。一方で、あまり恐れすぎずに大きく構えて取り組み、失敗があれば教訓として生かし、学びながら運用していく姿勢が大事かもしれません。

「あくまでSNSは、コミュニケーションのための『道具』のひとつ。運用が難しいと思うなら、思い切ってSNSを使わないというのも手だと思いますよ」

リスクは抱えるものの、企業にとって大きな利益をもたらす可能性を秘めるSNS。何のために運用するのか、どのようなメッセージを発信したいのか。リスクへの絶対解がないからこそ、まずは根本的なSNSの運用指針を検討した上で、そのルールや基準に沿って着実に運用することが重要ですね。

小木曽 健氏

グリー株式会社 社長室 社会貢献チーム マネージャー

インターネット啓発に関する全国での講演、オリジナル教材の作成、NPOなどを対象とした講師育成を担当。著書に『11歳からの正しく怖がるインターネット』(晶文社)、『大人を黙らせるインターネットの歩き方』(ちくまプリマー新書)など。

Written by:
BAE編集部