2018.10.16

天気が人々の行動を左右する!? 気象×マーケティングの現在

ビッグデータ解析により始まる気象データのビジネス活用

日本気象協会といえば、tenki.jpをはじめとする天気予報の提供や、防災・環境情報の提供で誰もが知る存在。近年は、気象データをビジネスやマーケティングに活用するための橋渡し役に、積極的に乗り出しています。 一般企業に対する気象データ活用のコンサルティングなどを手がける、一般財団法人 日本気象協会の吉開朋弘氏に、電通テックでウェザープロモーションを手掛ける田中 陽が、これから進む気象データのビジネス活用についてお話を伺いました。

目次

天気は人々の行動に影響を及ぼす

田中

私は現在、電通テックの中で気象データを企業のマーケティング活動に生かすというプロジェクトを統括しており、今回お話をお伺いするのを楽しみに参りました。

吉開

気象データがビジネスの世界にも使われるようになったのは、比較的最近のことです。私たちも、もっと身近に気象データを活用できる環境を整えていきたいと思っていますので、今日は色々とお話できればと思います。

吉開朋弘氏
一般財団法人 日本気象協会 防災ソリューション事業部 先進事業課 技師 吉開朋弘氏
田中

気象データをビジネスに活用するとは、一体どういうことなのか、まだまだイメージができない方も多いかと思います。まずは、そのあたりの話をお聞かせいただけないでしょうか。

吉開

天気は、人の「気持ち」と「行動」に影響を与えます。「天気が悪いから出かけるのはやめよう」であったり、「暑いからアイスクリームが食べたい」ということもありますね。このように、天気は「どこへいくのか」「なにをするのか」という2つの面で、人を動かします。つまり、気象を予測することで、人が「どこにいきそうか」「なにをしそうか」をも、あらかじめ予測することが可能になるということです。

田中

日本の天気予報の精度はかなり高くなっていますよね。その未来予測を販売促進やマーケティングにも生かせるということですね。

田中 陽
電通テック プロモーション・コンサルティング1部 部長 田中 陽
吉開

はい。先ほどの「アイス」の事例は分かりやすいですが、天気によって需要のブレがある商品は、上振れするタイミングはもっと多く売るチャンスですし、下振れするときは、賞味期限切れや過剰在庫などの無駄をなくすために出荷をセーブするなどの対策が考えられます。気象予測により先の天気が分かっていれば、計画的に生産・出荷を行って、利益を最大化しつつ無駄をなくすことができます。

田中

気象予測を販売促進に生かそうという考え方は、既に「ウェザーマーチャンダイジング」として認知されていますよね。

吉開

食品分野はもちろんのこと、アパレルや製薬といった業界でも気象データは重要です。アパレルですと夏冬服の売れる時期など大きく関わりますし、製薬関連ですと、例えば風邪の流行するタイミングではマスクや風邪薬が売れたり、夏の時期は殺虫剤や日焼け止めが売れたりと、天気によって売れ行きが変わる商品もかなり多いのです。また、私たちがいま注目しているのは、外食産業です。やはり、天気が悪いと「行くのをやめた」となる人は一定数いるのでキャンセル発生率も上昇します。それを見込んだ集客の仕方も気象データを使えば可能になります。

気象データによる需要予測の導入効果は年間約1800億円

田中

気象データのビジネス活用に関しては、近年ますますニーズが高まっています。観測精度や予測演算をするコンピュータ側の性能アップにより、「ウェザーマーチャンダイジング」が立ち上がった頃とは、活用できるデータの緻密さが雲泥の差です。より現実的な施策に使える素材が取れるようになっていますよね。

吉開

はい。ここ数年の気象データのビジネス活用は、20年ほど前に提唱されたウェザーマーチャンダイジングの第二波と言われており、おっしゃる通り、予測できる精度や期間が異なります。例えば1980年代には280km四方で行われていた計算が現在は20km四方で行われています。予測精度もその頃の3日先予報よりも現在の5日先予報の方が高くなっています。日々の天気は現在10日先まで予測できるようになっており、今後も伸びていく予定です。
予測の精度を決めるのは、観測、理論、計算機の3つの要素がポイントです。観測精度が上がればより細かいデータを取得できるになりますし、新しいデータが取れるようになるとデータ同士の関連性から新しい理論が生まれる、そして理論に基づいた膨大な量の演算も、計算機の性能が向上すればスピーディーに行えます。これらが組み合わさって、高い精度の気象予測が実現するのですが、いずれの要素も今後もさらに発展を続けていくことは間違いありません。

田中

アメリカでは農家が広大な農場にウェザーステーションを設置して、非常に細かい地域メッシュ(区画と時間の間隔)で気象を観測して、作物の生育に役立てるなど、個人単位での気象データのビジネス活用も進んでいますよね。計算機に関しても、今後の技術革新により計算機の進化が起これば、かなりのインパクトになるのではないでしょうか。

吉開

そうですね。また、ビジネス活用が可能になったもう一つの理由は、気象と商品や行動の変化をデータ統計から分析できるようになったからなんです。POS(販売時点情報管理)データが整備・蓄積されてきて、過去の購買データと気象データを掛け合わせて統計を取ることが可能になりました。

田中

売上と気象の相関をみるということですね。

吉開

そうです。気象と商品の売れ行きの相関関係を読み取ることで、次の打ち手を提案できるようになったのです。昨年、日本気象協会が出したリリースですが、気象情報をもとにした商品需要予測の導入による経済効果は約1800億円と試算しました。その一例として出ているものですが、夏は30度を超えるとアイスコーヒーがよく伸びる、夏も売れる日本茶は寒くなるともっとよく売れるなど、気温1度刻みでどんなことが起こるかといった相関データもだんだんと出せるようになってきています。

一般財団法人 日本気象協会のニュースリリースより

気象データで実現するウェザーマーケティング

田中

気象データはマーケティングにも活用できると思っています。例えば、電通テックでは「ウェザー&モーメントキャプチャー」というCRMソリューションをリリースしました。こちらは、地域ごとの気象の変化を加味した適切なタイミングで、異なるクリエーティブのメッセージを顧客に配信するCRMソリューションです。その時々、気象の変化も反映させた最適なメッセージを顧客に送れるというのは、有力な引きになると感じます。

吉開

ビジネス利用の方向性としてはまさにその通りです。人々がスマートフォンを持つようになって個々人にリアルタイムで情報が伝えられるいま、天気により人の気持ちや行動が変容する「まさにその時」に最適な情報を送るのは非常に有効だと思います。

田中

吉開さんは天気で人の心理変容や行動変容が起こると仰いましたが、広告も人の行動を変えるきっかけづくりとなるという意味では性質が似ています。であれば、プロモーションやマーケティングにも、今後気象データを積極的に取り入れていくべきではないかと。

吉開

そうですね。広告は、あるものを買う・買わない、あるいはどっちを買うか、というような判断が揺れている状態において、行動を後押しする効果があると思います。まさに気象の情報も同じような働きをするんです。

田中

傾いている心をぐっと押して、購買や行動に繋げるようなクリエーティブの手法はたくさんあります。ですから、気象の情報を生かす方法もいくらでもあると思います。特に、気象はトリガーとなる部分です。そのきっかけをもっと積極的に利用しない手はないと考えています。

気象データはもっと気軽に扱っていいもの

田中

2018年は、ゲリラ豪雨や台風など、異常気象が目立った年だという印象があります。このような傾向は気象データをビジネス活用する上では、大きな影響がありそうですね。

吉開

異常気象は今後も継続するといわれています。ですが、気象は人間の感情と違って(笑)、不確実性が低く物理的に予測することが可能なものです。また、前年までの傾向が当てにならないほど気象の変化が激しいということは、前年比より1週間前の予報の方がビジネス活用の価値があるのではないでしょうか。ますます正確な気象予測データの需要が高まるとも言えます。

田中

気象がビジネスに直結する業態にとっては余計、リスク回避のために欠かせないですね。ですが、まだまだ気象データのビジネス活用が民間企業で浸透していないのはなぜなのでしょうか。

吉開

一つは、気象データがアンタッチャブルなものと捉えられているからだと思います。気象庁のような国が扱う情報であるという認識が長年にわたって浸透しているので、自分たちがビジネスで使えるようなデータではないと敬遠する気持ちがある。また、技術的な問題もあります。気象データは、そのマーケティングデータの扱いのハードルが高いんです。膨大な記録を小さい容量に圧縮するために、特殊なデータ形式になっていて、一般のプログラマーや開発者でも扱える人は少ない状況にあります。加えて、気象に関する理論的なバックグラウンドを持つ人も少なく、どの情報を使えばよいかの判断がつかない。

田中

「ウェザー&モーメントキャプチャー」では過去の気象データと、相関のあるソーシャルメディアキーワードを抽出してマーケティングメッセージに取り入れるようにしています。こういった組み合わせも定石があるわけではないので、どうやって気象データに意味を見いだすか、どうビジネス戦略に生かすかを考えられる人材育成もマストですね。

吉開

気象情報自体はオープンデータなので誰でも利用できますが、それを扱える技術者が少ないですし、どう料理して使うかのノウハウを持っている技術者も少ないです。今後、もっと多くの企業の方に使っていただけるように普及のお手伝いをするのも我々の役目だと思っています。

田中

今後が楽しみですね。天気は祈っても何をしても変えられませんが、あらかじめ予測することはできる。手に入る気象データを味方につけてビジネスチャンスを作っていきたい。そこには必ず広告のもつ人を動かす力も関わってくると思いますので、そのお手伝いをしていきたいですね。

田中 陽

聞き手/電通テック プロモーション・コンサルティングルーム プロモーション・コンサルティング1部 部長

食品、飲料、日用雑貨、エネルギー、公営競技など幅広い業種のプロモーションやコミュニケーションプランニングに携わる。現在は、そのノウハウを生かしてマーケティング・プロモーションのコンサルティング業務に従事。気象データ×マーケティングをテーマにした活動にも注力している。

ウェザー&モーメントキャプチャー
Written by:
BAE編集部