2017.12.22

インターネットで人気爆発。マンガ家・宮川サトシのWebの流儀

「褒められたい」が生み出す客観視点と妥協しないクリエーティビティ

インターネット発のクリエーターが続々と誕生しています。特に、Webマンガの世界は群雄割拠とも呼べる状況。マンガ家の宮川サトシさんも、インターネットで大きな注目を集めたクリエーターの一人です。その仕事観や、Webという分野での振る舞い方について話を聞きました。

目次

彼のキャリアのスタートは、今から5年前の2012年。2014年にはWebで発表した母の死後も淡々と続く日常を描いた『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』で一躍脚光を浴び、その後も、『情熱大陸』というTV番組に出演したいという尋常ならぬ想いを描いた『情熱大陸への執拗な情熱』、引きこもりがちな主人公らしくない宇宙戦艦の乗組員をユニークに描く『宇宙戦艦ティラミス』(宮川さんは原作を担当)など、独自の視点をテーマに据えた作品で人気を集めています。インターネットという舞台で宮川さんが注目される理由とはなんでしょうか。インタビュー中、何度も耳にしたのが「褒められたい」というフレーズ。その言葉の裏には、徹底して自分を客観視し、仮説と検証を繰り返す宮川さんの姿勢がありました。

何が何でも納得させる気持ちで編集者にプレゼン

宮川さんの作品といえば、まず目を引くのがインパクトのあるタイトル。膨大な情報量のSNSのタイムラインの中でも、個性的なタイトルは見つけられやすく、強みとなるそうです。
 

「僕、タイトルを考えるのがすごく好きなんです。みんなが思わず『ん?』って思うようなフックのあるものにしたい。だけど、それでタイトル負けするのは嫌なので、内容についてもめちゃくちゃ考える。そうやって相乗効果的に作品を完成させていく感覚があります」

ただ、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』の時はそれも難航したとか。

Webで人気に火がつき書籍化も果たした『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(右)、『情熱大陸への執拗な情熱』(左)。

「担当の編集者さんが『そのタイトルだと女性の読者が手に取らない』って言うんです。でも、僕は普通のタイトルでは埋もれてしまうと思った。だから、そこからはセールスマンのごとくプレゼンテーションですよね。何が何でも相手を納得させる方向で動き、何とか了承を得ることができました」
 

実際、同作品は多くの反響を呼ぶ結果に。真っ向から編集者と対立するのではなく、同じ方向を向くように仕掛けたことが功を奏したと宮川さんは話します。

作品ひとつにつき、発明をひとつ入れていきたい

そうしたタイトルの妙がありつつ、やはり大切なのは作品の中身。宮川さんはマンガを描くうえでどのようなことを心がけているのでしょうか?
 

「作品の中に発明がないとダメだと思っていて。例えば、いま連載中の育児マンガ『そのオムツ、俺が換えます』は、妻の目を意識した男の『見せる育児』をテーマにしているのが発明だと思っています。育児マンガっていま世の中にあふれていますよね。でも、男性目線のものは少ない。実は、子供が0歳か2歳までの間は夫婦の離婚率が一番高いようで、理由は夫婦の意思疎通ができないからなんだそうです。ということは、本当は男って頭の中がこうなっているんだよ、失敗した時に内面ではこう考えてるんだよってわかる作品を描けば、離婚率が減るかもしれない。それは自分の個性でやれるはずだと思ったので、編集者から育児マンガの依頼があった時に、このテーマを選びました」

(c)宮川サトシ/講談社
Webマガジン「ベビモフ」で連載中の『そのオムツ、俺が換えます』の一幕

男性の視点を取り入れた育児エピソードの数々は、女性にとっては発見であり、逆に男性からすると「あるある」の連続。「情熱大陸の出演者に自分を重ね合わせる」「妻からの褒められ待ちをしながらオムツ換えをする」など、日常の中に潜む細やかな共感のタネ(あるある)を拾い上げる感性も宮川さんの独自性と言えるかもしれません。また、この「共感」というフレーズにも宮川さんは独自の見解を持っています。
 
「究極の“共感”はその人が経験したことがないことまで、共感させることだと思うんです。育児マンガでも、子供を育ててない人にも『なんかわかる』って思わせたい。読者に“先行共感"させられたらプロだなって思っているので、それを目指してやっています」

『そのオムツ、俺が換えます』をはじめ、宮川さんの作品は失敗談など、ご自身の体験にもとづいた作品が多いのも特徴。「エッセイマンガであれば、傷つくのは僕だけですからね。誰かを傷つけてまで笑わせたくはないですから」と語る宮川さん。とはいえ、とにかく“スベる”のが怖いとも、恥ずかしそうに付け足します。
 

「自分の名前が出ている以上、少なくとも友達にはつまらないなんて言われたくないんです。だから、締切が重なった時なんかは、本当につらくて妥協したくなることもあるんですけれど、その邪念が消えるまで完成度を上げないと納得できない。たまに『自分に厳しすぎる』と奥さんに言われるんですけれど、それすらも疑ってしまう。俺を安心させるために笑ってるんじゃないの?って。それくらい自分に脅迫がかっているのはおそらくよくないんですけれど、それだけ自分が成長しているんだと思います」
 

読者を気づかう優しさ、自分を徹底的に客観視する理性といった繊細さが、宮川さんの貪欲な挑戦と作品の高いクオリティを支えているようにも感じられます。

インターネットとの程よい距離感

SNSを中心に話題を集めることが多い宮川さんの作品。宣伝などをする際に気をつけていることはあるのでしょうか?
 

「作品の設定とか内情についてはなるべく(SNSなどで)公開しないようにしています。そういうものはマンガの世界だけで感じてほしいんです。ほら、タモリさんってプライベートな感じが全然わからないじゃないですか。でも、しっかりとした世界観を確立していますよね」

宮川サトシさん(@bitchhime)のツイッターアカウント

そうタモリさんへのリスペクトを踏まえて語る宮川さん。そこには昨今のSNS事情に関する問題意識もあるそうです。
 

「インターネットがない時代と違って、今は出版社によってはフォロワー数で連載が決まったりする。バズらないと認めてもらえない。だから、作者自身がSNSでレビュー欄へのコメントを求める。そうすると、それに反発する人も出てくるから評価も1と5ばかり目につくみたいなこともあって。でも、なんかそういうのって文化的に悲しくないですか? 作品が正当に評価されてない気がするし、こういう状況が続くとカルチャーがすたれていく気もします。それって出版不況よりもよっぽど深刻だと思うんです」
 

とはいえ、宮川さんの作品もさまざまな場所でレビューが書かれているのも事実。SNSでの評価が気にならないのかと思いきや「いや、そこはもう毎日エゴサーチしてますよ(笑)」と正直に語ります。時には否定的なコメントを目にしてショックを受けることもあるそうです。

まずは4コマのようなシンプルな枠組みで展開を考えてから、コマ割りに落とし込んでいるのだとか

「2、3日はモヤモヤするんです。ただ、そういう時は思い切ってインターネットから離れるようにしています。そうすると意外なところから解決策が見つかったりするんですよ。つい最近もラーメンズの小林賢太郎さんの本を読んだんですけれど、そこに『代案がある指摘は聞いた方がいいけれど、ただの野次は無視しろ』と書いてあって。それでスクリーンショットしておいた僕に対する批判を読み返してみたら、ほとんどが野次だったのでもういいやって開き直れました(笑)」
 

SNSの恩恵を受けつつも、程よい距離感で接するように心がけている宮川さん。2018年には自身が原作を担当した作品のTVアニメ化が決定するなど、これまでにない流れも来ています。温めている次回作の構想も、密かに取材陣に打ち合わせてくれました。
 
「発想の起点は大体、日常で抱いた感情、腹が立ったこととか、ちょっと面白い出来事とか、そういったものを貯めておくと、それが時々一つのテーマにシュッて固まると、作品のアイデアに育ちますね。僕も残りの人生のことを考える年齢にもなってきているので、限られた時間の中で、可能なかぎり時代に合ったものを発表していきたいです」
 
そう、語る宮川さんの挑戦はまだまだ続いていきそうです。


宮川サトシ

マンガ家。1978年生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、地元で学習塾を経営していたが、34歳の時にマンガ家を志して上京。以後、エッセイマンガ・ギャグマンガを中心に活躍。代表作に『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『情熱大陸への執拗な情熱』など。原作を担当した『宇宙戦艦ティラミス』はTVアニメ化も決定している。また『そのオムツ、俺が換えます』がベビモフ(https://babymofu.tokyo/)にて好評連載中。

Written by:
BAE編集部