2021.08.18

XR新時代に注目を集める3Dモーションデータ、将来は未来予測も可能に

エンタメ、スポーツ、健康、教育、リテール…広がる活用の幅

人間の三次元的な動きをキャプチャして生成する、人の動きのデータ、いわゆる「3Dモーションデータ」のニーズが、仮想空間市場の盛り上がりとともに高まっています。

そんな中、2021年5月に世界的トップダンサー公式の3Dダンスモーションデータを取引するマーケットプレイス「GESREC」がオープン。3Dモーションデータは果たしてどのような価値を持ち、どのように活用できるのか。GESREC運営企業のマイクロエンタテインメント株式会社・小平 託さんに、3Dモーションデータの可能性についてお話を伺いました。

目次

NFTとしての取引も始まった、モーション(人の動き)データ

——なぜ、3Dダンスデータのマーケットプレイスを作ろうと思ったのでしょうか。

私の妻がダンサーなのですが、彼女の話を聞いてダンス・クリエーターたちのキャリアをテクノロジーで支援できないかと考え、着目したのが3Dモーションデータです。

 

実はダンスには体系的な著作権が確立されていません。同じ創作物でも音楽であれば、著作者の権利として、著作者人格権、著作権(財産権)、著作隣接権といったように、さまざまな権利が認められているのですが、ダンスの世界では、まだ実際の判例などを見ていても、振付師さんがダンサーに提供したダンスの権利が100%認められるケースは非常に稀なんですよね。「GESREC」は、これまで見落とされてきた「ダンサーの動き」そのものに価値を見出し、ダンス・クリエーターにとって新たな活動領域を切り開いていくことを目的としたプロジェクトです。まず私たちは、ダンスの動画から抽出した3Dモーションデータを、実際に踊っているダンサーと振付師の共作ととらえ、「モーション権」という概念を提唱しました。実際の著作権のように、5月にスタートしたマーケットプレイスにおいてダンスデータ取引で生じた収益の一部は、ダンス・クリエーターたちに半永久的に還元していきます。

GESRECのサイトではプロのダンサーによる3Dモーションデータを購入することができる

——考え方としては、近年注目を集めているNFT(非代替性トークン)と近いところがありますね。

まさにそうですね。私たちもNFTに近しい考え方を以前から持っていました。ですが、思っていたよりも早く世の中でNFTが過熱してきたという印象があります。

ライゾマティクスがPerfumeの振り付けデータをもとに作成したNFTアート作品を販売するというトピックが話題になっている。
画像はライゾマティクスが手がける「NFT-Experiment」公式サイトより
 

——モーションキャプチャというと、何か大掛かりな機材や撮影スタジオを使って行うものという印象があるのですが、その辺りの技術も今は進化しているのでしょうか。

モーションキャプチャの技術にもさまざまなアプローチがあり、長らく主流となっているのは身体中にセンサーを付けて大掛かりなスタジオで撮影するという方法ですが、最近ではディープラーニングの技術を駆使して、2Dの動画から骨格の動きを解析するということが可能になっています。GESRECでも、ダンス・アーティストの方には、普通のスマートフォンのカメラで動画を撮影して送っていただくだけでOKで、あとは我々の方で2Dの動画データをベースに、3Dモーションデータを抽出するという仕組みになっています。

——GESRECのようなC to Cの3Dモーションデータ・マーケットが成立するのも、技術革新によって誰もが簡単にモーションキャプチャができるようになった時代だからこそ、と言えそうでしょうか。

そうですね。まさにその通りかと思います。近年の技術革新はすごく、特に我々の持つ技術を使えば、質の良い動画であれば、モノクロの古い映像からモーションデータを抽出することも難しくはありません。

「動き」による非言語コミュニケーションは「仮想空間」で強みを持つ

——先ほどモーションデータを取引する市場は既に存在するというお話がありましたが、実際の市場規模はどれほどのものでしょうか。

参考までに、私たちがベンチマークしている「モーションキャプチャ」市場の規模は2018年時点で150億円でした(出典:Verified Market Research)。当時は、今後1〜2年で市場規模が数倍になるといわれていたので、おそらく現状で300億円ぐらいになるのではないでしょうか。

——現在、3Dモーションデータにはどのようなニーズがあるのでしょうか。

ニーズは3つあると考えます。1つ目は、メタバースなどの仮想空間が大きな注目を集めていることを背景に高まっている、オンラインゲームやSNSでの需要。この市場は特にアメリカやアジアを中心に盛り上がっていまして、例えば韓国発のとあるSNSプラットフォームでは、著名なアーティストやダンサーのモーションデータの提供が活発に行われています。ユーザーは好きなモーションデータを選んで、自らのアバターに同じ動きをさせることができます。仮想空間では世界中のさまざまな国籍の方とコミュニケーションをとる機会が増えるので、ダンスや体の動きといった言語を介さないでも通じ合える、ノンバーバルなコミュニケーション手段に価値があるのです。

アバター作成アプリの「ZEPETO」では、有名グループのダンスなどの”ジャスチャー”を自分のアバターに反映させられる

——仮想空間に伊勢丹など有名百貨店が出店する事例も出てきています。このようなシーンで企業が3Dモーションデータを活用できる可能性はありますか。

例えば、お辞儀の深さとか、ちょっとした仕草の美しさとか、日本の接客業ならではの動き(モーション)ってありますよね。我々にとっては当たり前のことですが、海外の人からすると新鮮で、価値のある体験かもしれません。インバウンドという観点からも、仮想空間のモールで、こういったモーションデータが活用できるのではないでしょうか。

2つ目のニーズは、クリエーティブの世界での活用です。これまで3DCGを作るのには、強烈なコンピュータパワーや、高額のソフトウェアが必要でした。しかし現在は、コンピュータもどんどん進化していますし、無料の3DCG制作ソフトも出てきています。そこで何が起きるかというと、これまで現実世界で行われてきた映画やドラマの撮影が、バーチャルの世界に移行するようになる。大掛かりなセットや、細かな小物もすべて3Dで作れるようになるのです。

——そのような3D表現の中の1つとして、3Dモーションデータが活用されるということですね。

そうですね。3Dモーションデータは、全方位でクリエーティブに革新を起こすと考えています。例えば昨今は、コロナの感染予防という観点で、映画やドラマの撮影が難しくなってきています。しかし3Dモーションデータを活用すれば、人が密になる群衆のシーンなどを撮影する時に、わざわざエキストラの方にスタジオに来ていただかなくても大丈夫です。個々に自宅でスマホなどを使って撮影した動画データを送ってもらえば、そこから3Dモーションデータを抽出できるので、それらのモーションを反映したアバターを組み合わせることで雑踏のシーンや、戦国時代の合戦の映像を表現することができるのです。

また広告の世界のお話では、CMなどプロモーション目的の動画の制作方法も変わっていくのではないでしょうか。人々の記憶に残る、目を奪うような動画には、身体表現が効果的に使われている作品が多く見受けられます。実際、TikTokなどの動画SNSにおいても、ダンスはバイラルしやすいコンテンツだといわれています。CMの中で、プロフェッショナルでクリエーティブな動きを取り入れたいと考えた時に、プロのダンサーやインフルエンサーによる3Dモーションデータを素材として使うという選択肢もこれからは出てくるでしょうね。既にある映像資産を使うことで企業側はスムーズな制作ができますし、クリエーター側は効率良くマネタイズができるようになるという、企業とクリエーター、双方にとってメリットのある話です。

モーションデータが集まれば、将来的には動きの未来予測も可能に

——5月にGESRECのマーケットプレイスをスタートされてから、どのような問い合わせや引き合いが御社に来ていますか? 

現場では制作会社さんからの問い合わせが多いですね。プロモーションで3Dモーションデータを使いたいとか、ARライブをやりたいんだけど出し物の1つとして3Dモーションデータを使えないか、というお話をいただいてます。

エンタメ以外の分野では、スポーツの指導で3Dモーションデータを活用できないか、という相談が来ています。ダンスをはじめとして、空手や野球、サッカーなど、他のスポーツも同様ですが、上達するためには基礎のフォームをしっかりと身につけることが大事だと思うんですね。そこで、例えば自分のモーションデータをアップロードすると、正しいフォームとどれだけマッチしているか採点してくれる、というシステムがあったらフォームの習得がしやすいですよね。同様のシステムは自宅でのリハビリの進捗状況を判定するなど、医療分野への応用もできそうです。

また意外な分野では、日本舞踊などの古典芸能をやられている方から、動きを3Dモーションデータとして資産化したいというお問い合わせもありました。技術の継承という意味では、伝統工芸のような領域も、今後職人さんの細かい手の動きをモーションデータとして取ることができるようになれば、ロボットにデータを移植して、近い形で再現できる可能性もありますね。

——繊細な動きのともなう伝統芸能は保存や継承が難しいといわれているので、その活用法は良いですね。最後に、これからの3Dモーションデータの活用について、未来のお話を伺えますか。

1つはセキュリティですね。顔や指紋、声などをもとに本人を特定する生体認証の技術がありますが、人の動きもまた固有性が高いので、モーションデータで本人認証をするということも可能になるかもしれません。番号を入力したり顔を映したりせずとも、ただ歩いているだけでマンションのセキュリティが解除されるような日が来るかもしれませんね。

また今後、たくさんの3Dモーションが、ビッグデータとして集積されていくことで、1枚の写真から前後の動きを予測することが可能になるといわれています。もし実現すれば1つの応用可能性として、例えばこの人はこのまま歩いていると事故に遭う可能性が高いですよ、転んで怪我をするかもしれませんよ、と危険を先回りして察知することができるかもしれません。またモーションデータと生体データを掛け合わせることで、歩き方によって特定の病気にかかる確率を計測するなど、医療分野での活用も期待できます。

——未来予測はすごいですね。最近ではAIカメラによるお客さんの購買行動分析などが注目されていますが、モーションデータから次の動きを予測する、ということも考えられそうでしょうか。

あると思いますね。棚の前で立ち止まったり、商品に手を伸ばしたり、購買に至るまでのモーションを細かく分析することで、こういう動きをしたお客さんは商品を買ってくれそうなど、ある程度は予測できるようになるのではないかと思います。

最後に、近い未来の話としては、やはり仮想空間での活用は一層進んでいくと思います。渋谷区公認の仮想空間「バーチャル渋谷」などが顕著な事例ですが、バーチャルな空間自体がどんどんと広がっていますし、かつ仮想空間に入り込むためのアバターが誰でも簡単に作れるようにもなってきている。この2軸での動きが加速することで、3Dモーションデータが活用されるシーンも増えていくでしょう。

既に弊社もXRに関してさまざまな協業のお話をいただいていますが、今後とも独自の仮想空間の構築など、3Dモーションデータの活用を起点に、より深くこの分野にはコミットしていきたいと思っています。

マイクロエンタテインメント株式会社 小平 託さん

ありとあらゆるものが「データ化」される時代において、人間の動きを活用した3Dモーション技術は、これからさらに発展を遂げるでしょう。将来的には、エンタメ、スポーツ、健康、教育、伝統芸能、セキュリティ、リテールなどなど、非常に広く深い活用の可能性を秘めています。
コロナ禍によって加速した仮想空間のニーズが高まっている現在、3Dモーションデータはますます注目を集めることでしょう。

Written by:
BAE編集部