2019.05.17

「世代や性別より、着目すべきは情報感度」――専門家が語る消費行動のこれから

時代は令和へ。「消費行動」の変遷と未来

経済産業省は「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会報告書(2017年)において、2030年の消費経済市場は3つのタイプに分類できるのではないかと提示しています。

それが、自らのこだわりを追求する「自律的消費」、IT(SNSおよびネットを含む情報)を通じて、他者のレコメンドなどをきっかけに行動する「他律的消費」、そして偶然に面白いものと出合うワクワク感に惹かれる「偶発的消費」です。

そのレポート制作にも関わった消費行動論の専門家である慶應義塾大学 商学部 清水聰教授に、「消費行動」の変遷と未来について、お話を聞きました。

目次

「マイ・インフルエンサーを見つけ、信じる」時代

――研究会報告書の中には、SNSなどの情報に影響を受ける「他律的消費」タイプが存在しています。まず、ITの登場前と後で、消費行動はどう変化したのでしょうか?

インターネットの登場による最大の影響は、「情報取得のコストが下がった」点にあります。

それまでテレビや雑誌を通じて知るか、リアルで誰かに話を聞く以外に方法がなかったものが、PCやスマートフォンでの「検索」によって、誰もが簡単に欲しい情報を得られるようになりました。昔なら、低額商品の価格比較はコストをかけてまでしませんでしたが、現在ならインターネットですぐに検索できますから、ほとんどコストをかけずに、低額商品の価格も比較するようになりました。

さらにPCからスマートフォンに移行したことで、その流れはさらに加速し、「誰もが“いつでも”、手元で簡単に情報を取得できる時代」になりました。昔はひとたび店に入ると、外の情報と遮断されてしまうため、店舗で「安い!」とうたえば、それを他店と比較することはできませんでしたが、いまならその場で他店の価格を確認できます。つまり、常にどこでも“比較”できる時代になったわけです。

――同時に、商品の感想などをネット上に公開する人も増えました。

はい。昔は有識者だけが情報を発信している印象でしたが、いまや誰もが発言する時代になりました。しかしネットを通じて、「知らない誰かの体験談」を知ることができるのは便利であると同時に、“情報過多”という問題も引き起こしました。

そこで現在、多くの人は、自分と感覚の似ている「マイ・インフルエンサー」を見つけ、彼らの感想を消費判断の指標として、特に信用する傾向にあります。

その傾向が特に強いのがZ世代の若者たちです。彼らは“自分らしさ”を大事にしますから、「流行り物だから」という理由では物を買いません。あくまで、自分の感性・情報源の中で「自分がいい」と思ったものだけを取捨選択し、購入する傾向にあります。

つまり現代は、「有名人だから信じる」のではなく、「自分に近いこの人の発言だから信じる」時代になったといえるでしょう。

――ネット検索で情報を取得するようになったことで起きた変化は、他にもありますか?

そうですね。「検索」は便利ですが、直接“目的”の事柄だけを検索しますから、図書館で一冊の本を探すときのように、その隣に並んでいる本について知る、という機会を得ることはできません。

つまり「ピンポイント」での情報取得になっているため、周辺の関連情報について知ることはないわけです。自分が求めるピンポイントの情報のみが蓄積される。これは、デジタルネイティブ世代、特にZ世代の若者の多くに該当するもので、その世代が体系的に物事を関連付けて見る力が不足している原因にもなっていると思います。

世代や性別ではなく、情報感度で消費行動は変わる

――物心ついたときからデジタルが当たり前にあるZ世代の若者たち。彼らの「消費行動」は、他の世代とは違うものなのでしょうか?

もちろん違う部分もありますが、人によって異なるという方が正確でしょう。現在、ユーザーのセグメントはマーケティングにおいて重要な要素ですが、私は「世代や性別でくくるのは、時代にマッチしていない」と考えています。

むしろ現在、着目すべきは“情報感度”なんです。年齢を問わず、情報感度の高い人は「時代ごとのトレンド」に敏感に反応し、興味を示します。

ですからシニアの方にアンケートを実施すると、情報感度の高いシニアの方の中には、「スマートスピーカーに興味がある」と回答する方もいるんです。もちろん情報源の違いはあります。若者はネット、シニアはデパートなどが中心です。大事なのは情報源がどこかではなく、「自分なりの情報取得の方法を持っている」ことなのです。そこから得られるものにシニアと若者で大きな違いはありません。

つまり現代は、昔のように「若者は流行に敏感だけれど、シニアはそうではない」と、ステレオタイプでユーザー像を語れない時代に突入しているんです。

慶應義塾大学 商学部 教授・清水 聰さん
慶應義塾大学 商学部 清水聰教授

――たしかに「消費行動」という意味では、ユーザーをカテゴライズしづらい時代になったかもしれません。ちなみに「情報感度」は、どのようにして形成されるものなのでしょうか?

これは私見になりますが、情報感度は、若いときの消費経験が影響すると考えています。ですからバブルを経験している世代というのは、総じて情報感度が高い。彼らが若いときは、「お金を使うことが正しい」時代でしたから、質の高いものに触れたり、ブランド物を購入したりする体験を多くしています。それが年齢を重ねた現在も、「高い情報感度」を維持することにつながっているわけです。

外食するならチェーン店よりも、ちょっと気の利いたイタリアンをセレクトする。そんな風潮がその世代にはあります。そんな彼らに育てられた、現在20代前半の彼らの子どもたちもまた、親の影響で同じような消費経験を持つため自然と情報感度は高くなっていると考えられます。

――昔の若者がブランド物に使っていたお金を、現在の若者たちは何に使っているのでしょうか?

もうそれは本当に、人それぞれです。アルバイトの時給が昔より上がったといっても、現代の若者の可処分所得がそれほど増えているわけではありません。むしろ昔はなかった「携帯電話料金」という支出も加わっていますから、個々の優先順位に応じて消費しているという点では、昔と変わっていないのではないでしょうか。

ファッションに使う子もいれば、食事の子もいれば、旅行の子もいる。常に最適配分を考えているわけです。かといってTPOを無視しているわけでもなく、時と場合に応じて、キレイな格好だってします。ただ、昔と違い、ブランド物に固執するわけではなく、「ある程度以上であればいい」という思考は強いように感じます。

なぜなら彼らには「こうじゃなきゃいけない」という固定観念がない。だからさまざまな面で、“自由”に判断していますね。

ユーザーの情報感度を理解し、アプローチすることが重要

――現在、消費行動において着目すべきは「情報感度」だということですが、その高低を見極める方法はあるのでしょうか?

実は、「情報感度」というのは曖昧なもので、正確な指標はありません。数値化できない以上、高低も判断しにくいのは確かです。しかしデジタル上であれば、ユーザーの購買履歴やサイト内の行動データなどによって、趣味嗜好を知ることはできます。

購買履歴には、ライフスタイルが反映されていますから、そこから見えてくるものは大きいはずです。たとえばバレンタインデーのチョコレートの探索行動からは、1000円、2000円といった金額に区切りがあるチョコレートは上司への義理チョコで、自分のためのチョコレートを探す場合とは、価格帯や時間のかけ方に、大きな差があることが明らかになっています。

つまり「何を買ったか」、「どれくらい時間を消費し、どんな情報を探したか」によって、ユーザーのペルソナや情報感度を推察することができるのです。企業は今後、そうした行動データを元に、ユーザーの情報感度を理解し、情報感度に沿ったアプローチをすることが重要になってくるでしょう。

――平成から令和へ。2025年には日本は3人に1人が65歳以上の高齢者となります。消費も変化していくのでしょうか?

そうですね。現在は、シニアの所得の格差が問題視されていますが、将来的に日本は、「健康格差」の時代に突入すると私は考えています。

寿命が長くなることで、「人間らしい生き方とは何か?自分にとって、人生をまっとうするということは何か?」という、人生の根源的な問いを、多くの人が持つと思います。そして、その答えを導くには、本人の健康状況も大きく関係してくるでしょう。個人の価値観などを加味した、新しいビジネスが生まれる可能性もあると考えています。


誰もが欲しい情報を手元で検索し、ピンポイントでその情報のみを取得する時代に、企業はユーザーに向けてどのように情報を届けるのか、そのアプローチの模索が続いています。
さらに、ライフスタイルの多様化によって世代や性別でユーザーをカテゴライズする難しさも加わり、デジタル上の行動データから抽出した「情報感度」からのアプローチは、今後広がりをみせそうです。

Written by:
BAE編集部