2021.05.26

ゲーミフィケーションが可能にする社内エンゲージメントの向上

企業内DX成功のカギは、社員の利用定着

企業内でのDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の重要性が謳われる一方、導入してもなかなか社内でDXが定着しないという課題を抱える企業も多く存在します。「DX」という言葉に踊らされて終わるのではなく、社内でしっかりと機能・定着させるにはどうしたらいいのでしょうか。企業内DX支援サービスの開発を手がける株式会社電通テックの小山雄也が、企業DX推進の現状と定着のためのポイントをお伝えします。

目次

企業の存続にかかわる「2025年の崖」

——最初に、日本の企業内DXの現状と課題についてお聞かせください。

企業内におけるDXの推進の機運は以前よりありましたが、新型コロナウイルス感染症によってテレワークが浸透するなどDX導入の流れは一層加速しました。DXが関連するコンサル市場は、コロナ禍前の2019年度時点で前年比7.3%増の8,217億円になったとみられ、2024年度には1兆円に達すると試算されています(2020年6月 IDC Japan調べ)。

一方で日本の産業界をマクロでみると、経済産業省がDXレポートの中で懸念する「2025年の崖」の課題があります。いわゆる既存の基幹システムやソフトウェアが時代遅れのレガシーシステムになり、AI、IoT、ICT等総合的で先進的なデジタル技術を活用し、ビジネスを変革するDXの妨げになりかねない、この分岐点が2025年だと見ているわけです。

——具体的に2025年にはどのようなことが起こるのでしょうか。

経産省のレポートによると、2025年には先端ITにかかわる人材不足は約43万人にまで拡大し、多くの企業に導入されているSAP社のERP(Enterprise Resource Planning=全部門共通システム)のサポートが終了します。またこの間に、様々な新たなデジタル技術の実用化が進み、2025年には半数近いIT、デジタルサービスが入れ替わっているであろうと予測されています。その結果、DXの波に乗り遅れたユーザーである企業は、ビッグデータの活用がしきれずデジタル競争の敗者になるだけでなく、サイバーセキュリティ上のリスクの高まり、業務基盤そのものの維持・継承が困難になるといった、企業の存続にもかかわる事態にもなりかねないと見られています。

——「2025年問題」に対して企業内DXを急ぐ企業も多くある一方で、そこにも課題はあるということですね。

はい、私たちはその課題を重く考えています。例えばCRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)を導入されている企業は少なくありません。それぞれ顧客関係および顧客データの可視化と活用、営業活動の可視化と効率化が目的のシステムです。共通するのは情報システム部員ではない、マーケティング部門や営業社員等の必ずしもデジタルに強いとは限らない社員が使わないと意味がないということです。しかしそこに入力すらしない社員が複数いれば、定着も活用も遠い道のりと考えざるを得ません。

——なぜそういうことが起きるのでしょうか。

世代間格差が大きいと思います。特に必要なのは、中間管理職から上の世代、40代から50代のマインドセットです。これまでの業務プロセスの慣れ、成功体験が新しいビジネス体系の取り入れを躊躇させるのです。

——また、“宝の持ち腐れ”からの脱却、つまり企業内にDXを定着させる着地点に向けて、現在のコロナ禍に伴うリモートワークの推進がアクセルになっているかと思いますが、なかなか社内で定着をしないという声も多く聞こえてきます。

DXとリモートワークの関係では、プラスマイナス両面があると思います。社員一人一人の利用促進の点では使わざるを得ない局面が増える一方で、個人によってDX・システムに対する理解度や受容度が異なる中で、全社一体の取り組みを推進するための社内コミュニケーションの希薄化が問題です。こうした環境の中で、利用定着を進めるためには、非対面での利用促進の機会、とりわけ「楽しみながら」DXを定着させるモチベーションをどうつくっていくかが重要です。

「EnGame™」サービス紹介資料より

——モチベーション向上のためのポイントとはなんでしょうか。

私は「エンゲージメント」が重要なのではないかと考えています。この場合のエンゲージメントには、社員同士の「横のつながり」に加えて、「縦のつながり(経営とマネージャー、プレーヤー)があると思います。とりわけリモートワークが進み、リアルなコミュニケーションが困難な中では、トップダウンでDXを推進するだけではエンゲージメントは生まれにくいでしょう。社員同士、あるいは部門横断型の横のつながりを意図的に創造する仕掛けが必要だと思います。

社員のモチベーション向上が、企業内DX定着の近道

——社員のエンゲージメントを高めるために、どのような方法が考えられるでしょうか。

最近では、“ゲーミフィケーション”の導入が活発化しています。ゲーミフィケーションとは、“「ゲーム」の考え方やデザイン、メカニクスを、ゲーム以外の社会的なサービスに利用する”ことです。例えば、インナーコミュニケーション領域での他社の先行事例としては、eラーニングの進捗によって、各社員に見立てたアバターが画面上で競うプログラムを提供している会社があります。eラーニングに限らず、ゲーミフィケーション自体は目新しい発想ではなく、B2B、B2C限らず様々なサービスに組みこまれています。

身近な例では、企業が提供する安全運転支援カーナビアプリに、運転傾向のスコア化(可視化)やメダルの配布、マイルを貯める仕組みなどを搭載したものがあります。また別の企業でも会員の健康増進活動の取り組みと継続をサポートするプログラムの中に、ゲームの要素をふんだんに取り入れており、人気ゲームキャラクターとのパートナーシップ締結もしています。

——企業内DXにおいてもゲーミフィケーションの活用は進んでいるのでしょうか。

電通テックでも、当社が持っているコミュニケーションプランニングのノウハウを生かして、「皆でつながって、遊ぶように楽しむ」ことでDXを定着させていこうという考えのもと、「EnGame=Engagement by Gamification(エンゲーム)」という企業内DXの定着支援サービスを立ち上げました。ゲームデザインを取り入れた独自のプログラムに顧客企業の社員が取り組むことで、DXの利用定着を狙うというものです。

——社員のエンゲージメントを高めるうえで、イメージしているゲームデザインはどういったものですか。

例えば社員のレベルアップや助け合いを促す観点から、RPGのような世界観を作成します。利用定着が課題である場合、ログインや案件登録回数などのアクションに応じて、オンライン上でアイテムを得たり、レベルアップしたりといった形で、インセンティブを社員に「見える化」していきます。SFAであれば、共同作業の形を可視化すべく、箱庭ゲーム的な手法——種をまき、花が咲いて庭が豊かになる——という表現手法もアイデアとしては考えられます。自発的に社員が思わず使いたくなるサービスを付与することで、能動的に個人の成長を促し、組織としての発展を実感させ、企業と社員、社員同士のエンゲージメント向上にも貢献していくサービスの提供をしていきます。

——なるほど。確かに積極的に使いたくなりそうなシステムですね。一方で、先ほど、ゲーミフィケーションを取り入れるという発想はそれほど新しいものではないというお話もありました。「EnGame™」には新しい視点や優位性はありますか。

先ほどご紹介したような、特に広く一般消費者をターゲットにしたアプリやサービスは、一つの固定したプログラムに多数のユーザーが参加していく形をとっています。しかしEnGame™は、デジタルアダプションを目的として、クライアント企業の課題や文化に合わせてプログラムを開発し、提供します。また、社員同士の競争心の醸成や個人への賞賛をすることにとどまらない、組織としての成長の見える化を重視しています。個人に対しては、利用行動を可視化しフィードバックを図ることでDXの活用を促進し定着を実現します。それらの点において、ゲームよりエンゲージメントを強く意識しています。当社がプロモーションの企画実施等で培ってきたスキルやノウハウを生かし、社員一人一人のエンゲージメントを高めることが求められています。

エンゲージメントを高め、会社の成長の形を共有

——最後に、企業内DXの「秘けつ」について教えていただけますか。

まずはその企業独自の課題を顕在化させることです。企業におけるDXには、成長や競争優位性の前に、身近な業務の課題を解決する側面があります。CRMであれば顧客管理や顧客との関係性構築、マーケティングの課題、SFAであれば営業の課題を抽出し、社員と共有化することです。DX定着がなぜ進まないのかという組織内に帰属する問題の顕在化も重要ですが、その前に業務そのものの課題を共有することで、何のためのDXかという目的が明確になります。

ただ、時流に乗るためではない。ましてや人の仕事をデジタルに置き換えることだけが目的ではない。一人一人の社員の業務のパフォーマンスが上がり、それが組織内にナレッジとして蓄積・共有され、有効活用されることは、社員にとっても有益なはずです。そうした意識を高めるためにも、エンゲージメントがカギになるというわけです。

——そのための“ゲーミフィケーション”ですね。

そうですね。CRMやSFAは導入しても企業に定着しないというのが、世間一般における長年の常識ではありました。しかし、これは大きな社会損失です。まずそれを少しでも変えていきたいというのが当社の願いです。全社的にコミュニケーションが円滑にでき、DX定着の目的、ひいてはその先の未来にある会社の成長の形が共有されればDX化は進みます。

当社は、これまでの多様な企業のマーケティングプロモーションの支援を通じて、「人の行動として浸透させ、定着させる」ノウハウや知見を持っています。また、企業内のインナーコミュニケーション領域も多く手掛けております。こういった強みを生かし、企画からクリエーティブ・コンテンツ制作、システム開発、運用支援まで、企業の文化や環境に応じて柔軟に提供していきたいと考えます。


「2025年問題」を間近に控え、コロナ禍によってDX推進の流れが加速している今だからこそ、より企業内DXを定着させる上での課題が顕在化、深刻化しています。定着しない理由の一つとされているのが、社員の低いモチベーション。必要性に駆られてせっかく新しいツールを導入しても、積極的に活用することがなければ宝の持ち腐れになってしまいかねません。そこでカギとなるのが、社員の会社に対するエンゲージメントを高めるための仕組み。コロナ禍で社員同士の対面接触がなかなか難しい状況だからこそ、会社へのエンゲージメントを高めるというインナーブランディングの考え方は、一層重要性を増していのるかもしれません。ゲームのように楽しみながら参加できて、かつ社員同士をつなげることにも寄与する“ゲーミフィケーション”の概念は、そういった観点からも企業内DX定着の秘策として注目すべきでしょう。

小山雄也

株式会社電通テック ビジネスディベロップメント部門
サービスプロデュース事業部 サービス企画1部

外食チェーン、FMCG、エンタメなど多様な業界のマーケティングプロモーション中心としたプランニング、ディレクションを経験。デジタル、PR、販促やインナーなどの領域に捉われず、統合的なプランニングを指向。現在はそのノウハウを利活用したDXをはじめとしたプランニング・コンサルテーション、実行支援を行う。

Written by:
BAE編集部