2019.11.08

すべての業種のビジネスを拡張する「宇宙産業」

宇宙ビジネスが注目される背景とその可能性とは?

昨今、急成長を遂げている「宇宙産業」。その市場規模は世界的に拡大傾向にあり、日本においても内閣府が発表した「宇宙産業ビジョン2030」に、2030年代の早期の“市場規模の倍増を目指す”とあるように、国を挙げて注力していく分野となっています。

では、なぜいま宇宙産業が拡大しており、またどのような分野で事業拡大の期待が高まっているのでしょうか?
地球から月への転送サービスの実現などを目指す注目のスタートアップ、株式会社ispace Founder & CEO 袴田武史さんにお話を聞きました。

目次

2040年に100兆円以上に拡大する「宇宙産業」

——宇宙ビジネスは現在、成長産業のひとつとして、大きな注目を集めています。その背景を教えてください。

もともと、宇宙は「いずれ生活する場所になる」と考えられていました。それが徐々に現実味を帯びてきたことで、近年、宇宙ビジネスに注目が集まっています。

大きなターニングポイントとなったのは、宇宙=国の事業だったものが、米国を中心にベンチャー企業の参入が活発化したことです。それを機に一気に成長産業へと変わりました。

やはり国が主体となった研究開発では、チャレンジングなことはしにくく、どうしても保守的になりがちです。現在も人工衛星に使われているのは主に20年前の技術ですし、なかなか新しい技術が登場しづらい環境下にありました。しかしそこに民間が参入したことで、新たな技術が次々と誕生しています。

民間、つまり我々ベンチャーの強みとは、「失敗できる(挑戦できる)」点にあります。その強みを活かし、さまざまな国のさまざまな企業がいま宇宙産業を押し上げているわけです。

——その市場規模とはどれほどのものなのでしょうか?

さまざまなデータがありますから一概には言えませんが、現在年間で約40兆円ほどの市場規模が2040年には100兆円以上にまで拡大すると言われています。2010年には世界の宇宙産業の市場は約27兆円だったものが、2017年の時点で約38兆円、2030年代には70兆円以上にまで拡大するといわれています。

ちなみに、市場規模がいちばん大きいのはNASAを擁するアメリカです。現在も市場のおよそ半分は、アメリカによって生み出されているといわれています。他国ですと、中国が今年、月面着陸を成功させたことで技術的に大きな前進を見せました。またインドも勢いがあり、現在は日本とインド、どちらが先に月面着陸を実現するかに世界が注目しています。

しかし日本の市場はまだまだ小さく、まさに“これから”というところです。逆に言えば、「伸び代が大きい」とも言えるでしょう。さまざまな分野で成果を残している日本の技術力の高さは、宇宙産業においても大きな功績を残す可能性を十分に秘めていますし、市場は小さくとも決して出遅れているとは私は思っていません。

2020年代から拡張する宇宙ビジネス

——「宇宙」と聞くと縁遠いもののように感じてしまいますが、GPSも人工衛星を活用したものですし、実はすでに私たちの生活のそばに宇宙は存在していますよね。

はい。ですから現在私たちが当たり前だと思っている“日常”というのは、宇宙によって支えられている部分が大きいのです。GPSはもちろん、すでにインターネットも「衛星インターネットアクセス」という人工衛星による活用が進められており、今年もAmazonをはじめさまざまな企業が人工衛星を打ち上げています。

つまり今後私たちがより豊かで便利な生活をおくるためには、さらに宇宙の力を借りることになるわけです。

また「宇宙利用」という視点で考えると、宇宙というのは“データのプラットフォーム”でもあるといえます。GPSもインターネットも宇宙経由ですから、そこには膨大なビッグデータが存在しているわけです。そのデータを活用したマーケティングビジネスも今後拡大していくと考えられています。

——人工衛星を活用した「通信」分野以外にも、発展する可能性を秘めた産業はありますか?

私は、すべての産業は「宇宙」によって進化・拡大していくと予想しています。当社は、2040年には1,000人ほどの人が住み、年間約1万人が訪れる月面都市「Moon Valley」構想を掲げています。もし人類の生活圏が宇宙に広がれば、地球で必要なものはすべて宇宙でも必要になります。衣食住から始まり、宇宙間を移動するためのモビリティも必要になります。

また宇宙にいる時間が長くなれば、エンタメも求められるでしょうし、地球では「宇宙旅行」という新たな選択肢が生まれ、それに付随したビジネスも拡大していくことになるはずです。

と、想像すればキリがありませんが、いずれさまざまな企業から「宇宙用の商品・サービス」が生まれ、それを提供する未来が待っているはずなのです。ですから宇宙と無関係の産業はないわけです。

 

——ispaceはそのなかで、どのようなビジネスを展開していくのですか?

当社は史上初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」で2021年にランダー(着陸船)を月面に着陸させ、2023年にはローバー(探査車)による月面探査を実現したいと考えています。その先にあるのは、地球と月を結ぶ輸送サービスの展開です。月に人が住むようになればモノが必要になりますから、そのモノを当社が運搬するわけです。

(左)ispaceが開発するランダーの模型、(右)ローバーの模型

さらにその先には、月の資源として期待されている「水」を、ロケット等の燃料エネルギーとして活用する構想なども事業展開として視野に入れています。

他にも「Space Food X」という宇宙と地球の食の課題解決を目指すプロジェクトにも参画しています。現在もミートテックと呼ばれる人口培養肉が注目を集めていますが、そうした肉や野菜などを含めたバイオ食品は、宇宙だけでなく地球の食料問題の解決にもつながると考えられています。

さらに、宇宙でも気軽に食を楽しめるよう、3Dフードプリンターによってさまざまな料理の味を再現できる未来も想像されているなど、宇宙食料マーケットへの期待感も高まっています。

宇宙ビジネスは、さまざまな業種にプラスの影響をもたらす

——今後、日本の宇宙ビジネスがさらに拡大していくためには、どのような課題を解決する必要があるのでしょうか?

予算、技術、人材などさまざまな課題がありますが、いちばんのハードルとなっているのは、“人間の心”です。まだまだ日本では、「宇宙=夢の世界」と考える個人、企業が多く存在しています。それによって自分(自社)とは関係ないと思い込んでしまい、宇宙とのつながりを絶ってしまっていることが市場拡大の障壁となっているように感じます。

たとえば遊園地のように、誰にとっても身近で憧れの場所へと宇宙が変化していけば、状況は一変するはずです。そしてその実現はそう遠くないと私は考えています。

——将来的に宇宙と地球はつながり、より身近な存在になっていくのですね。そしてその未来において、宇宙と無関係の産業(企業)はたしかになさそうです。しかしそれは、現状においても同様なのでしょうか?

はい。利益を上げるビジネスという意味ではまだ先の未来ということはあっても、宇宙を無視していい企業は存在しないと考えています。利活用という点では、業種によって距離感は変わるかもしれませんが、現在もさまざまな関わり方が存在しています。

ispaceの事業にも数多くのコーポレートパートナーが存在していますが、その関わり方も多岐にわたります。ある時計メーカーが開発した独自素材を、当社のランダーおよびローバーに提供いただく予定です。また陶器関係の企業様は、開発中の全固体電池について月面での技術実証実験を行う予定です。他にもパートナー企業には、航空会社様など、多種多様な業種の企業が名を連ねています。

HAKUTO-Rプログラムに参画し、宇宙との関わりを深められることは、各社様にとって、メリットのひとつだと考えています。現在は、多くの人にとって「宇宙は遠い場所」です。だからこそ、その宇宙に関わっているという事実は、“チャレンジングな企業”“未来志向”といった印象を与えることにつながるわけです。

そう遠くない未来、地球と宇宙はひとつの経済圏となり、人々の生活も大きく変わるはずです。そして、さまざまな企業が宇宙ビジネスに関わり連携することで、既存のすべてのビジネスが大きく発展していくでしょう。

株式会社ispace CEO 袴田武史さん
株式会社ispace Founder & CEO 袴田武史さん

成長産業である宇宙ビジネス。現在は人工衛星を軸にした通信やデータプラットフォームとしての価値に注目が集まっていますが、月に人が住むようになれば状況は一変し、さまざまな企業が参画することになりそうです。ビジネスが拡張し、生活も大きく変化を遂げる。そんな未来の到来が現実味を帯び始めています。

Written by:
BAE編集部