2020.09.04

ファッションの新潮流は「Return to Basic」

ニューノーマル時代を知る ファッション編──軍地彩弓

これまでのビジネスや生活様式を変える新常識「ニューノーマル時代」の業界展望をお伝えするこの企画。今回は“ファッション”編です。

新型コロナウイルスの感染拡大により発令された「緊急事態宣言」は、私たちの生活はもちろん、特に女性の心(インサイト)に大きな影響を及ぼしたそうです。ファッション・クリエイティブ・ディレクター 軍地彩弓さんに「ニューノーマル×ファッション」をテーマに、お話を聞きました。

目次

自分を見つめ直し、インサイトが変化した女性たち

ファッションクリエイティブ・ディレクター 軍地彩弓さん
ファッションクリエイティブ・ディレクター 軍地彩弓さん

——現在、新型コロナウイルスの影響を受けて、多くの人は、在宅時間が増えています。そうした状況は、人々の心にどのような変化をもたらしているのでしょうか。

今回、さまざまな場所で「不要不急」という言葉を目にしました。では、何が該当し、何は該当しないのか。ファッション(おしゃれ)はどちらに該当するのか。

そんなことを考える人が多かったのか、今回の外出自粛を受け、多くの女性たちは「自分(ライフスタイル)を見つめ直した」といいます。かくいう私も断捨離をしたひとりです。つまり、不要不急から派生して、「いるものと、いらないもの」を考える時間になったんですね。それはモノもそうですし、人間関係だってそうです。

そのなかで「大切なモノ」を自分自身に問いながら、“いま”必要なものを人々は求めました。たとえばそれは、モノによって心が豊かになること。着ていて快適であるものです。

この時期に売れたものを調査してみると、「着心地のいい服」が多く売れていることがわかりました。具体的には、ルームウェアと、ゆったりしたワンピース。この2つは今年、ヒット商品が多くあり、ユーザーニーズが急激に高まったアイテムとなりました。また、往々にして女性は「未来に投資」する傾向にあり、ヒットアイテムにもそれが表れています。

スタイルハウスが、新型コロナウイルスの影響で何が売れたか男女市場別に調査した結果。男女ともに、自宅で快適に過ごすためのアイテムが多くランクインしている

同様に、サンダルが売れているのも特徴的で、一方で仕事用のパンプスはあまり売れ行きが芳しくなかったそうです。コスメだと、マスクをするため、アイメイク関連のものは売れ、代わりに口紅の売上は減少するなど、コロナの影響がそのまま反映された形となっています。

女性のランキングの6位に「花瓶」がランクインしているのは、部屋を彩るために、花を買った人が多かったからです。心の安らぎを求めながら、さまざまな観点から“いま”を見つめ直した女性たちの姿が浮かび上がってきます。

モノを大切にしたり、花を愛でたり、家族を思ったり、生きるために必要なことを見つめ直した。そうして始まった新トレンドは「Return to Basic」とも呼べるものです。誰もが“根源的”なものと向き合い始めているように感じます。そしてその傾向は、男性よりも女性の方が強くあります。

——ファッション不況が叫ばれる昨今ですが、好調だったジャンルもあるのでしょうか。

はい。ルームウェアコレクション「ジェラート ピケ」は今年、前年比2倍の売上を記録するなど、非常に好調で、この勢いはまだまだ続きそうです。これは、これまでソーシャルを意識したファッション(おしゃれ着)にお金を使っていた人々が、自宅で過ごす時間を豊かにするためにリラックスウェアを求めたことが売上に反映された結果といえます。

今回、生活環境が変わったことでマインドが変化し、購買にも変化が起きたわけですが、そこには「モノによる心の充足」というキーワードがあります。今後は、流行っているから買うのではなく、シーズンレスで長く着られる、エコ志向など、これまで以上に“いいモノ”を選ぶ傾向が強くなるでしょう。また、コンビニのレジ袋有料化など、生活に身近な場所で、“地球環境”を考える機会もありますし、エシカルや志向などSDGsへの注目も自然と高まっていくのではないでしょうか。

——ファッション界隈は、ビジネス的にも、ショーがすべてオンラインになるなど、これまでの“当たり前”が大きく変化しています。

これまでファッションショーは、一部の人だけが参加できる特別なものでした。しかしミラノもパリのファッションショーも、歴史上初となるオンラインに切り替わったことで、“誰でも見られるもの”へと変わりました。

これによって、「クリスチャン・ディオール」のオートクチュールのコレクション発表は、映画監督が演出したショートムービーに置き換えて配信し、現在YouTubeで誰でも見ることが可能です。

この映像は耽美的で美しく、素晴らしい。ですがファッションショーはやはり、リアルで参加した方が楽しいんです。招待状が届いた瞬間から始まる高揚感。現地に行けば、街中がファッショニスタで溢れ、街全体がファッションウィークに沸きあがる。そしてその先に待つ、エンターテインメント性の高いショー。そのすべてが“特別感”に満ちています。

その感動をオンラインで再現すべく、今年、各ブランドは工夫を凝らしていました。たとえば、スペインのラグジュアリーブランド「ロエベ」は、コレクション発表の数日前に、「触れる」という体験を提供するため「Show in a box」というルックや生地スワッチの入ったボックスを送っています。

同様に、リアルとオンラインをつなぐ仕掛けをしていたブランドは多くありました。実際、それがあるだけで、オンラインで見る体験はまるで違ったものとなりました。ロエベのように、生地のディティールなどを、実際に体感しながら視聴したり、より近くに感じたりすることができたのです。オンラインとリアルを組み合わせることで、こんなにも体験価値は変わるのかと感じましたし、今後このOMO的な視点は非常に重要となると思いました。

リテールにおけるOMOは、今後さらに加速

——“当たり前”の変化は、リテール全体。店舗にもおよんでいます。

“3密”を避けるべく、売り場はさまざまな対策を講じていますよね。

アパレルショップの「オールユアーズ」は、店舗接客をオンライン接客に切り替えていますが、同様の施策は他店舗でも多く見られます。

オールユアーズは、コロナ対策として、早々にオンライン接客を開始し、顧客とのコミュニケーションを継続した
(画像出典:オールユアーズ公式サイト https://store.allyours.jp/blog/2020/05/21/200230 )

オールユアーズの創業チームは、元々大手量販店で勤務していた方々で、大量生産・大量消費経済に疑問を覚え、本当にいいモノを持って、全国に出張して試着会を展開することで事業を拡大してきた企業です。その地道な活動が徐々に実を結び、現在では全国に彼らのファンが存在します。

コロナによって、多くのチェーン店が打撃を受けていますが、それは顧客とのエンゲージメントが関係しているからです。今後は彼らのように、顧客と日頃からいかに深いコミュニケーションを取っていくかが重要になるでしょう。結果、大型店ばかりに焦点が当たっていた時代から、個人商店にも再度注目が集まるようになると考えています。

ほかに、インスタライブを使った販売も多く見られましたね。リアルタイムで質問に回答することで、オンライン上でコミュニケーションし、そのまま購入に結びついたケースも多くあり、オンライン上で深く顧客とつながろうと、各社が試行錯誤を重ねていた印象です。

アパレルの販売チャネルは、主に店舗とECです。SNSやZOOMなどのオンラインアプリはその間を埋める役割を担っています。今回、新たに生まれたオンライン接客という選択肢は、都会にいても、山奥にいても、同じ接客(サービス)を受けることができるという点で画期的です。今後も定着していく可能性は十分にあるのではないでしょうか。

一方でECにも変化が起こっています。生活者の志向がトレンドより必要なものへと移行している現在、モノにストーリーを求めるユーザーが増加している傾向にあります。これはつまり、「選択して買う時代」の到来を意味しています。ユーザーは心を満たすものを探しています。今後、D2Cブランドが得意とするようなストーリー語りは、オンライン上でも非常に重要な要素となるでしょう。

——店舗もECも在り方が変化するなかで、テクノロジーはどのような役割を果たすとお考えでしょうか。

今後オンラインとオフラインの融合(OMO)が加速するなかで、テクノロジーの力は確実に発揮されるのではないでしょうか。

一方で、ユーザーは「心を満たされたい」と考えていますから、背景にはデジタルが駆使されていながらも、“感動”を感じられる設計が重要になります。

デジタルとオフラインの両輪で、いかにユーザーにアプローチしていくか。すでに「ナイキ」は、靴を買うのではなく体験する店舗「HOUSE OF INNOVATION」を数年前から世界で展開し、ブランドの世界観を体感することをメインとした場を設けています。同様に、世界最大の家具量販店「IKEA」も家具をプレゼンする場所をつくっています。どちらもリアルな体験を経て、購入はECです。

もちろん、場があるだけでは駄目で、そこに「体験したくなるような価値」がセットである必要があります。ナイキはメンバーだけが受けられるプロによるシューズ選びのアドバイスサービスや、実際にバスケットボールプレイヤーとプレイできる場を付加価値としています。購入の前にエンタメ的なフィジカルな体験があるという構造は今後、さらに加速すると私は予想しています。

つまり店舗ごとに、顧客が来店する目的を設計することも必要になる時代が来るということです。これからのリアル店舗に求められるのは、オンラインでできない“経験”や“価値“を提供することです。

また、コロナ以前の日本は、店舗とECは自社ブランドであっても、社内では競合をする位置付けにありましたが、今後は両方のセールスを統合した社内システムが重視されるようになるはずです。

これまでの“当たり前”を捨て去り、時代をしっかりと読む。そのなかで、リテールにおける「ニューノーマル」が育まれ、新たな“常識”が根付くのではないでしょうか。また、その先にある未来においては、消費や経済の中心となる若者の存在を無視することはできません。彼らが働きやすく、消費しやすい環境を整えることも、健やかな未来を実現する上で、重要な要素だと感じています。


昨日までの“当たり前”が通用しなくなった小売業界。そのなかで求められているものは、オンラインとオフラインをいかに組み合わせて、ファンをつくり、育成していくかということでしょう。今後リテール界隈におけるOMOは加速し、新たな「ニューノーマル」が生まれることになりそうです。

Written by:
BAE編集部