2019.04.26

子育て世代のOMO的上海生活

質の高いオンラインコミュニティへの参加が子育てを変える

デジタルの進化が加速する現代。注目が集まっているキーワード「OMO」は、Online Merges with Offline(オンラインとオフラインの融合)のこと。これはオンラインとオフラインを分けるのではなく、オンライン起点でビジネスを捉えるマーケティングの新たな考え方を指します。
オフラインの生活行動がデータ化され、オンライン上の個人のIDと結びつく一方で、そのデータを活用して提供されるサービスが変化していく――そうなることで、私たちの日常はどう変わっていくのでしょうか。
BAEでは、OMOが先行し生活に浸透しつつある中国に暮らす人々に焦点を当て、いまのテクノロジーとの関係から見えるOMO的ライフスタイルをひも解きます。シリーズ第1回は、上海市内で仕事と子育ての両立をこなす若い夫婦に話を聞きました。

目次

子育ての悩みはアプリ一つで解決

陳さん(29歳)諸さん(30歳)夫婦は、2歳の娘とともに上海市郊外の持ち家で生活しています。夫である陳さんは薬剤師、妻の諸さんはショップアプリのデザイナーとして勤務する共働きがあたりまえの上海では、ごく一般的な暮らしぶり。子育てや家事を手伝いに双方の両親が交代で通うという、保育園やベビーシッター探しに奔走する夫婦と比べて恵まれた環境にあります。

そんな2人も、子育てにオンラインサービスやコミュニティが欠かせないといいます。
「一番役に立っているのは、『年糕媽媽』という子育てのアプリです。出産から現在まで、育児の悩みはこのアプリ一つでほぼ全て解決することができました。ここではショッピングもでき、子どもの誕生日や身長、体重などを登録してあるので、月齢・年齢に応じた商品のリコメンドが入ってきます。いま一番欲しいちょうどいいものを勧められるので、調べる・探すといった手間を省け、時短にもつながっています」(諸さん)
『年糕媽媽』は自ら母親でもある医学博士・李丹陽氏が開発したプログラムで、現在、1,600万人(2019年4月現在)のファンを抱える、母子業界で最大のWeChatアプリ。医師の立場から科学的な育児情報を提供し、優良な育児用品のネットショップを運営するというのがコンセプト。『親子学院』として親しまれている教材動画の有料配信がキラーコンテンツです。
「先輩ママの体験談や専門家のアドバイスが豊富な教養系のミニプログラムもよく使っています。初めて子どもが熱を出したときの対処や、離乳食を作るときに材料をどこまでつぶすといった細かな情報まで、即座にわかるのが便利です。困ったときの手助けにとどまらず、早期教育プログラムも子育てにとても役立っています。このプログラムで購入した動画を使って、運動や音楽、お絵かきなど、家の中で子どもと一緒に楽しみながら学んでいますが、歌や手遊びでわが子の能力が伸びたと思います」(諸さん)

早期教育もオンラインサービスを積極的に活用

ママが『年糕媽媽』に頼る一方、2歳のお子さんは目下、英語アプリ『宝宝玩英語』が大のお気に入り。月齢・年齢ごとにアニメや歌の教材が表示され、オンライン上のクラスメートと一緒に勉強ができます。親はSNS機能を用いて、子どもの興味の傾向やプログラムへの要望を投稿できて、同じような子を持つ親同士もつながれる仕組みになっています。
毎日のように見ているお子さんは、最近では知っている単語が増え、外出時にクマのイラストに出合うと、指をさして「bear!」と言うそうです。
「僕は英語があまり好きではないのですが、それは最初に出合ったのが学校の授業だからだと考えています。試験のための英語ではなく、アプリで楽しく学べる今の子どもたちは英語を楽しいものと認識しています。これは羨ましいことです。日常の遊びとして英語を取り入れることで自然に好きになってもらいたいという思いから2歳から英語を始めさせました。苦手なもの、嫌いなものがあったら、楽しく成長できませんから」(陳さん)

「このアプリで英語がペラペラに話せる大人になるかは正直分かりませんが、成長過程で楽しいものに出合えたことが大事ではないかと考えています」(諸さん)
2人の教育方針は「自分の好きなことを見つけて楽しく育ってほしい」ということと「考える力のある人に」とのこと。そのために、小さい頃からいろいろなものに触れる機会をつくりたいようです。小さな子どもに多くの経験機会を与えるには、時間や場所の制約がつきものですが、中国ではオンラインサービスが豊富で、子どもを教室まで連れていく負担がなく、家にいながら気軽に学べる高品質な教育プログラムが充実しています。一方で、オフ会には利用する親たちだけでなく、教材を作成する講師陣など先生も参加します。ハロウィンのような親子で楽しめる季節行事で盛り上がり、同じライフステージにある親子同士仲良くなれるうえ先生とも交流できるので、リアルな教室に通うことの必要性をあまり感じないそうです。

自分のために「使う」信用スコア

現代の中国社会を生きる1人の消費者として、デジタル化が進んだ都市生活をどう感じているのか、ジーマクレジット(芝麻信用:中国IT大手アリババが開発した個人信用評価システム)にフォーカスして聞きました。買い物の支払いや地下鉄の乗車、デリバリーなどさまざまな生活シーンでスマホ決済が日常的な陳さん。個人のスコアが「見える化」することに抵抗は感じないのでしょうか。2人に伺うと、市民感覚ではジーマクレジットは「評価される」ものではなく、「使う」もののようです。
「僕はけっこう使っています。例えば、ベビー服やおもちゃをリサイクル売買するのですが、スコアの高い人から買うようにしています。僕自身もスコアが上がると買ってもらえることが多くなります。少し前に、ofo(シェアサイクルアプリ)のデポジットが返却されなくなるというニュースがありましたが、スコアが高いとデポジット自体を払わなくてよくなるのでお得です。個人的によく使う公共施設等にあるスマホ用のシェア充電器も、ジーマクレジットのおかげでデポジット不要でした」(陳さん)

陳さんが使っている『閑魚』というアリババ傘下のフリマアプリは、アリペイの決済履歴からスコアリングされるとのこと。点数が上がるようになるべくアリペイを使うのは、日本人がクレジットカードのポイントや航空会社のマイルを貯めるのに似ています。そういう意味では、個人の信用スコアに特段抵抗を感じていないようです。陳さんのように、中国社会では一般的に、スコアの提示で相手に信用してもらえるのはメリットと考えられています。

諸さんは、中国社会はいま変革期にあると捉えています。デジタル化の面ではもちろん、グローバル社会が進化するなかで語学も重要、情報や技術が入れ替わるスピードも速いと感じています。
「私を含め、同年代の知人が転職を重ねていて、その業界に留まってじっくり研究したり腕を磨いたりする時間がありません」(諸さん)
自分の子が成長する頃には、もっと社会が高度に安定し、1人の人がじっくりと研究を重ねたり、好きな仕事を安定的に続けられたりできる世の中になっていることを望んでいます。


―取材を終えて
中国では、ダウンロードやインストールせずに利用できるアプリ内アプリ「ミニプログラム」のユーザー数が伸びていて、情報収集だけでなく、ショッピングやチケットの予約、デリバリー、飲食店での注文などさまざまなシーンで利用されているようです。
今回のお2人が子育てに重宝しているWeChatアプリ『年糕媽媽』もミニプログラムが充実し、場所や時間にとらわれないオンラインサービスにより、子育てにおける生活行動も変容しているのがうかがえます。
ビジネスの面からみると、安心・安全を優先したいと考える子育て中の親に対して、医師や教育者が関与する質の高い情報提供を入り口に集客し、行動データを集積。利用者ニーズの把握から商品や教育プログラムの開発、ひとりひとりの子育てにコミットした細やかなサービスを提供することで信頼を築くという循環が生まれているようです。
学びや成長という、1人の人生の中で最もリアルで重要な側面が、オンラインコミュニティに参加することでより良い形で変わっていくなら、それがデジタル化の最大のギフトと言えるでしょう。

Written by:
BAE編集部