2021.11.09

技術の進化が生んだ、プロジェクションマッピングの民主化──広がる活用法

利用範囲は屋外から屋内、テーブルの上にまで拡大

建物に映像投写するというイメージが強い「プロジェクションマッピング」。しかし近年、その利用範囲は広がりを見せており、市場規模も拡大傾向にあります。

なぜコロナ禍においても、プロジェクションマッピング市場の勢いは衰えないのでしょうか。その理由、そして具体的な活用事例について、一般社団法人プロジェクションマッピング協会 代表理事 石多 未知行さんにお話を聞きました。

目次

機材の小型化によって、利用シーンが拡張

——プロジェクションマッピングといえば、屋外で利用するイメージがあります。コロナ禍においても、その市場規模は拡大傾向にあるそうですが、その理由はどこにあるのでしょうか。

まず、プロジェクションマッピングの定義というのは、曖昧な部分があります。基本的な概念としてプロジェクターを使用して空間や物体に映像を投写し、対象物に対して、映像を適切に「配置」すること、また対象の「形状に合わせた(専用の)映像」を作って映写時に合わせる行為を指します。このプロジェクションマッピングという概念が生まれてからの歴史は浅く、欧州発の技術ということもあって、欧州で15年ほど、日本ではまだ10年ほどです。

ちなみに日本での建物でのプロジェクションマッピングは、私共が2010年に逗子市で行ったものが最も古い事例で、その後少しずつ事例が増え、2012年9月には東京駅丸の内駅舎保存・復原工事の完成を祝して行われました。その時の衝撃は大きく、ここから一躍注目されるようになりました。

2012年、東京駅丸の内駅舎を使って披露されたプロジェクションマッピング。多くのメディアに取り上げられ、大きな話題となった

しかし、普及のためにはひとつ、大きな課題がありました。それはプロジェクションマッピングを実施するためには、莫大なコストがかかることです。

大規模なプロジェクションマッピングの魅力は、多数のプロジェクターと建築を組み合わせることで実現する立体的で圧倒的な映像表現にあります。そのためには、多くのスタッフと、高価な機材を準備する必要があったのです。

その流れが変わったのには、機材の進化が大きく影響しています。メーカー各社がオフィスや家庭向けの小型プロジェクターを開発し、大型だった業務用でもパナソニックやエプソンが小型化を進めてきました。これによって屋外だけでなく、屋内でもプロジェクションマッピングを活用できる場が増えてきました。

技術の進化は、プロジェクションマッピングを民主化し、近年では、さまざまなシーンで活用されるようになりました。その結果、市場規模の拡大にもつながっていると推察されます。

——株式会社グローバルインフォメーションが今年9月に発表した市場調査レポート(※)によれば、今後2027年まで、プロジェクションマッピング市場は年平均成長率20.1%で成長し続けるという予測もあります。

同レポートが示唆している「成長」の背景にあるのも、活用シーンの広がりが大きいと思います。

コロナ禍の中で、世界中の大型イベントの多くは延期や中止を余儀なくされました。しかし店舗や商業空間、舞台やコンサート、博物館や美術館などの展示演出、展示会、小規模イベントなどでもプロジェクションマッピングが使われています。そうした現状を鑑みれば、集客などの目玉として利用される可能性は高まりますし、そうした期待値も予測に反映されているように感じます。

※「世界のプロジェクションマッピング市場:業界分析と予測 - 投影距離・次元・明るさ・商品・用途・地域別(2021年~2027年)」

「体験」を届ける装置としてのプロジェクションマッピング

——技術の進歩により市場を広げているプロジェクションマッピングですが、店舗内などリテール領域での活用も可能なのでしょうか。

はい。プロジェクターの進化によって、屋外の大規模なエンタメ演出だけでなく、近年は店舗の空間演出としても使われるようになってきています。

たとえば、世界が認めた真珠のトップブランドとして知られる「ミキモト」は、銀座にある本店のショーウィンドウを活用したプロジェクションマッピングの美術作品を展開し、大きな注目を集めました。

精彩なペーパークラフトの後方から複数台の小型プロジェクターで映写。洋館を舞台に、2組のカップルによるロマンチックな物語が展開される様子は幻想的で、「ミキモト」のブランディングにもつながりました。

ミキモト銀座2丁目本店(当時)で実施された、ウィンドウディスプレイを活用したプロジェクションマッピング 動画提供:プロジェクションマッピング協会

当時、多くの人々がショーウィンドウの前で足を止め、この作品世界に見入っていました。外から見えるショーウィンドウは、ユーザーとの接点となるプレゼンテーションの場です。ただ見るだけでなく、「体験」にまで昇華できているのは、プロジェクションマッピングの効果であり、大きな特徴のひとつと言えるでしょう。

——技術の発展によって、小スペースでもインパクトのあるプロジェクションマッピングを表現することができるようになったのですね。

はい。屋内を活用し、体験を最大化した事例としては、ほかにも「ヒルトン東京」が行った、デザートブッフェの空間演出があります。「アリスinハロウィーン・トリック」と題したデザートブッフェは、「不思議の国のアリス」をモチーフに美しい世界観を構築。そこに動的なインテリアとして、プロジェクションマッピングを活用することで、「食べる」だけでない「おいしい・楽しい体験」を届けることに成功しています。

ヒルトン東京が実施した、デザートブッフェの空間演出にプロジェクションマッピングを活用した事例 動画提供:プロジェクションマッピング協会

さらにレストランでのテーブル演出の活用も、見られるようになりました。テーブルの上のお皿や料理にプロジェクションマッピングを投影することで、飲食をよりエンターテインメントとして演出する。これも食事を「楽しい体験」とする仕掛けとして機能している例と言えます。

レストランの店舗全体、テーブル演出にプロジェクションマッピングを活用した例

ほかにも、より小さなスペースを使った実施事例もあります。イオンが運営するリカー専門店「イオンリカー」での実験的な実験的な試みとして、5段階あるワインの味覚(甘味・酸味・渋味)、32種類ある香り(花・果実等)をホログラフィックな映像で表現。ワインを評する際に用いられる専門的な表現を視覚的に映像演出しました。

ワインの持つ味や香りをモニターと特殊なフィルムを使った映像マッピングで表現した事例 動画提供:プロジェクションマッピング協会

こうして機材や技術の進展によって、プロジェクションマッピングは場所や空間を選ばず、幅広いシーンで活用できる演出手法となりました。初期投資は必要ですが、季節や商材のテーマに合わせ、カスタマイズや自由な演出が可能ですし、何より自分の目の前で展開される映像表現は、演出というよりも「体験」として届きます。だから思わずスマホで撮影する方も多く、「SNSでの拡散力を持つ」という点も、プロジェクションマッピングの新たな強みとなっています。

テクノロジーとの融合によって広がった、表現領域

——プロジェクションマッピングとテクノロジーが融合することで生まれた、新たな表現もあるのでしょうか。

そうですね。テクノロジーと融合することで、インタラクティブな表現も可能になっています。

たとえば、千葉県柏市にある複合施設「AMUSER KASHIWA」では、プロジェクションマッピング+インタラクティブのインスタレーションを実施したことがあります。吹き抜け空間に吊られた三角形のパネルは1枚の「葉」を形成し、そこにマッピングされた映像と音が来場者の動きにインタラクティブに反応。訪れるのが楽しくなる演出として、非常に好評でした。

千葉県柏市にある複合施設「AMUSER KASHIWA」で実施されたプロジェクションマッピング+インタラクティブのインスタレーション 動画提供:プロジェクションマッピング協会

新しい使い方という点では、今年3月の体感型アート展「NAKED FLOWERS 2021 −桜− 世界遺産・二条城」では、コロナ禍で当たり前となった入場前の手指のアルコール消毒をネイキッドがアート化しました。

消毒を行うために手を差し出すとアルコールが手に噴射されるとともに、デジタルの桜の花が咲く仕掛けは、「感染予防をエンタメの一部に昇華」させており、プロジェクションマッピングの新たな可能性を感じさせるものとなりました。

アルコールが手に噴射されると同時に、手のひらに桜の花が投影される演出によって、感染予防をエンタメに変えた

ほかにも、自然の造形を光によってアップデートできる手法も生み出しています。映像ではないですが、海岸の白く砕ける波だけに特殊な照明を投写する「NIGHT WAVE」という光と波のメディアアートもその考え方を踏襲した手法です。波に光を投影することで、いつもの海の新たな表情を届け、また閑散期の観光コンテンツとすることに成功しました。

逗子海岸で実施された「NIGHT WAVE〜光の波プロジェクト」では、動く波に映像を投影するために特殊な照明を駆動させる独自のプログラムが使用されている

将来的には「街のエンタメ化」にも寄与するプロジェクションマッピング

——テクノロジーと融合したことで、プロジェクションマッピングに新たな活用法が生まれているのですね。その活用範囲は今後、どのような広がりを見せるとお考えでしょうか。

いま私どもが特に注目しているひとつに、渋谷区が発表した「渋谷区クリエイティブシティ特区プロジェクト」があります。

これは5GやAR、プロジェクションマッピングなどを活用し、街中でエンタメを楽しめるような街づくりを展開していく構想です。そこには、次世代パブリックビューイングのイメージとして、プロジェクションマッピングが「街づくり」に利用される未来が描かれています。

渋谷区が発表した「2020クリエイティブシティ宣言」の一部 

出典:https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/future-vision/pdf/3siryo3.pdf

きっと未来では、私たちの生活のさまざまな場所でプロジェクションマッピングや先進の映像表現が日々に彩りを添えてくれているはずです。その中においても、常に創造的な提案をすることにより、多くの企業や自治体の課題解決が独自性を持ってできるよう、我々の組織もクリエイターも成長していけたらうれしいです。

一般社団法人プロジェクションマッピング協会 代表理事 石多 未知行さん

機材の進化とクリエイターのアイデアによって、コストダウンと活用範囲の拡大を実現しているプロジェクションマッピング。エンタメとして楽しめるだけではなく、ショーウィンドウの演出やレストランでの体験価値向上など、リテール領域での活用も広がっています。VR/ARなどのテクノロジーと掛け合わせることで、よりインタラクティブなユーザー体験を作ることもできそうです。

Written by:
BAE編集部