2020.09.17

非接触決済や、混雑緩和などニューノーマルな生活にも対応。音響通信技術の可能性

音ならではの空間活用や、他社サービスとの相乗りのしやすさが強み

非接触でデータを送信することができるためさまざまな使い方があるものの、これまで大規模に使われることが少なかった音響通信技術。日本ではSoundUD推進コンソーシアムが2017年に設立され、規格が統一化されてきたことにより、交通機関やショップでのポイント付与などに導入・活用され始めています。導入コストも低く利用の可能性は幅広いというSoundUDについて、ヤマハ株式会社の岩田 貴裕さんにお聞きしました。

目次

音声がトリガーとなって情報を届ける

——SoundUDとはどのような技術ですか?

スピーカーから発生させる音の波形を使い、スマートフォンをはじめとしたデバイスと通信ができる音響通信技術となります。音で通信をするテクノロジーは以前から存在しましたが、各社が独自の規格で開発していたので、なかなか普及に至りませんでした。そこで、もっとこの技術を広く活用し、相互に乗り入れが可能な枠組みにすることを目指し、ヤマハが規格化を行い、コンソーシアムを設立。330以上の組織に参画いただいて、普及を進めています。

——音による通信とはどんな仕組みなのでしょうか?

SoundUDでは主に人間の耳には聞こえにくく、不快にならない周波数と音色を使って、「音声トリガー」という再生時間のごく短い音をスピーカーから再生します。その音をスマホなどのマイクがキャッチすると、トリガーに埋め込まれた情報をもとにクラウドサーバーや端末内のデータにアクセスし、追加の音声情報や多言語の文字情報をスマートフォンに表示させます。サーバー上では表示させる情報を事前に用意しておくイメージです。

——いまおっしゃられたような使い方ですと、現在主流となっているBeaconやBluetoothといった通信技術に近い部分があるかと思いますが、それらと比較した際の音響通信技術のアドバンテージはなんでしょうか。

もちろん一長一短なところはありますが、3つのメリットが考えられます。

1つ目は、導入コストやハードルの低さです。Beaconと違い、音響通信技術は専用のデバイスが発信側に必要なく、一般的に配置済みの車内スピーカーや店内スピーカー、サイネージのスピーカーなどをそのまま利用できます。

2つ目は、音の特性を利用できるというところです。音は、電波に比べて壁や防音で遮蔽がされやすいので、空間を限って情報を発信したいというときに向いた技術です。商業施設の一定の空間だけでクーポンを配布する、アミューズメント施設などの限られた場所だけで情報を発信するなど、ピンポイントに情報を発信できるのはメリットです。

——逆に、音ということで騒音にかき消されてしまうというリスクはないでしょうか。

トリガー音声は非常に短いことと、ノイズが少ない周波数帯域を利用することで、BGMが流れていたり、電車内のように騒がしい場所でも問題なく使えます。また、人間には聞こえにくい音であることを逆手にとって、音楽やアナウンス音声と連動させて利用することも可能です。

3つ目のメリットは、これはSoundUDの特性にはなりますが、もともとオープンな規格として始まっており、コンソーシアムとして実際に数多くの組織に参画していただいているため、サービスの相乗りがしやすいということです。例えば、アニメなど一連の聖地巡礼施策として、聖地のある駅に着くと車内アナウンスとともにスマホに通知が届き、実際に聖地にたどり着くと声優さんのボイスが流れて、それをトリガーにスマホに特別な情報が表示されるなど、交通機関から観光地まで一気通貫のサービス提供も可能になります。

——SoundUDの具体事例を教えていただけますでしょうか。

SoundUDの代表的な事例としては、駅や空港などの交通機関や施設のアナウンスに音声トリガーを追加することで、利用者のスマホに翻訳した多言語情報を表示させる「おもてなしガイド」というサービスがあります。

SoundUDに対応した「おもてなしガイドアプリ」のイメージ図
SoundUDに対応した「おもてなしガイドアプリ」のイメージ図

——日本語がわからない外国人観光客や耳の聞こえづらい人にはとても便利そうですし、日本人にとっても慣れない路線では重宝しそうですね。

SoundUDという名称には、音響通信をユニバーサルな規格にするという意図だけでなく、音のユニバーサルデザイン(UD)として、言語の違いや障がいの有無にかかわらずだれにでも簡単に音の情報にアクセスできることを目指して作られた規格でもあります。ですから、公共情報や交通情報など、幅広い方に利便性を与えるサービスは第一に注力してきた分野です。

ニューノーマルの時代にこそ活躍する技術

——そのほか、音響通信技術はどのようなシーンで活用できそうでしょうか。

withコロナの新しい生活様式に対応したソリューションも提供できるかと思います。

例えば、タクシーでの非接触決済にも利用されています。タクシーアプリ「MOV」(9月に「GO」へ変更予定)では、タクシー内で流れるトリガーをキャッチすることで、目的地に着くと自動的に決済が完了するといった処理をSoundUDで実現しています。カメラをQRコードにかざすなどの手間なくUXに優れた使いやすさが特徴で、現金の受け渡しをなくすことで接触リスクも低減しています。

そのほかにも列車の混雑緩和サービスに活用されています。京急電鉄の京急線アプリ「KQスタんぽ」は、平日朝ラッシュ時間帯における、特急等の混雑緩和のため、比較的混雑度合いが低い普通列車に乗車した方にポイントを付与するサービスです。普通列車走行中に流れる自動車内放送に音声トリガーも同時放送で実現しており、サービス相乗りの好例です。

ポイントやクーポンの付与だけでなく、広告的な活用も考えられます。例えば、電車内の音声トリガーで車両を特定し、中吊り広告やサイネージ広告の内容をスマホにも表示させることで、既存の屋外広告とスマホのデジタル広告を連動させた新しい広告体験の実現も可能です。

マスメディアでの活用や、地方創生など、未来への展開

——音声ということで、例えばテレビやラジオCMの音声をキャッチして、視聴者のスマホと連動させるということは可能でしょうか。

SoundUDを活用してテレビ放送の内容をスマートフォンに字幕提供するといったプロジェクトも進めています。ユニバーサルデザインを中心に、より広い分野で安心して使っていただけるよう、今後とも規格の安定化、利用の利便性を高めていきたいと考えています。

また、オンラインでのライブやスポーツの試合において、SoundUDを活用して「リモート応援」をするという取り組みも行われています。視聴者がスマホから声援のフレーズを選ぶことで、実際にその応援の声が会場に流れるというものですが、SoundUDの音響通信技術は放送で流れる音声をトリガーにして、視聴者がどの中継(試合)を見ているのか紐付けるという部分で活用されています。

——今後、音響通信技術の活用はどのように展開していくでしょうか。

クオリティを問わなければ音響通信そのものは難しい技術ではないため、安易に独自の技術を作り、模倣サービスを展開されてしまった結果、音響通信の信頼が損なわれることもあったため、特許や共通規格をしっかり進め、啓蒙活動や注意喚起を行っていきたいと思います。その上で「音」の得意なユースケースを中心に共通規格化したSoundUDを着実に普及・推進していきたいと考えています。海外ではまだこういった統一規格での展開は見られないため、国内での成功事例を海外に持ち込むことで、音響通信技術の統一規格のグローバル展開も見据えて取り組んでまいります。


SoundUDのユニークな部分は、とにかく「音声」がトリガーになっているという部分です。音声であるために音が伝わる限定的な空間で通信が完結するという特性は、遮蔽された空間を活用した施策として大いに活用できそうですし、さらにトリガー自体が、音声という人間が知覚できる情報であるという特性を逆手にとって、室内に流れる音楽と連動してスマホに情報を送るという合わせ技も可能になりそうです。
例えば、スーパーの店内BGMに連動してクーポンが配布されたり、ライブや映画などのオンラインイベントで、画面から流れてきた音楽に連動してスマホに特別な情報が表示されるなど、音声情報との組み合わせ次第で、価値あるユーザー体験を提供することができるでしょう。

Written by:
BAE編集部