2020.04.03

成功するサブスク、失敗するサブスク。その違いとは?

成功の鍵は、“お得” “悩み解決” “便利”の設計

映像メディア総合研究所の調査によれば、映像コンテンツ利用率の分野で、レンタルよりもサブスクリプションサービスが上回るなど、昨今さまざまな業界で「定額制」が話題となっています。

一方で、料金設定や利用率を見誤れば、サービスを継続して提供できなくなるなど、事業としての難しさもそこには存在しています。では、成功するサブスクと失敗するサブスクには、どのような違いがあるのでしょうか。一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会 執行役/サブスクマガジン編集長・杉山 拓也さんにお話を聞きました。

目次

事実上、1兆円を超えるサブスク市場

——サブスクリプションサービスは、ここ数年で急増したイメージがあります。その市場規模とは、現在どれほどのものなのでしょうか?

昨年、矢野経済研究所が発表した調査によれば、2019年度の国内市場規模(支払額ベース)は6,485億円となり、18年度比で15%増と大幅に伸長。2023年度には、8,623億円となり、5年間で1.5倍に拡大する見通しです。

しかしこれは、ファッション、食品、住居、教育、娯楽など8分野における顧客の支払額を合計したものであり、その他のサービスは含まれていません。より広義に「サブスクリプションサービス」を捉えれば、賃貸住宅なども含まれますから、その市場はすでに1兆円を超えていると考えています。

そもそもサブスクリプションサービスとは、雑誌の定期購読を指す言葉として、アメリカで古くから使われていた言葉です。日本でも、雑誌の定期購読や、牛乳の定期配送などの「定額サービス」は昔から存在していますよね。現在、話題となっているサブスクは、その範囲が拡大したものであり、そもそも馴染みのある形態だったことも、ユーザーが受け入れやすかった要因だと考えています。

「サブスク」は、雑誌の定期購読を指す言葉から、幅広い分野で最適なサービスを継続的に提供する言葉に変化していった

——同時に、利用者にとってメリットが大きいことも、サブスクリプションサービス拡大の理由のひとつのように感じます。

そうですね。特に企業からすれば、「支出が毎月定額である」ことは非常に魅力的なメリットです。経営計画が立てやすくなりますから、利用しやすい。これは個人の利用者も同様で、「定額」であれば、月によって使い過ぎてしまう心配もありませんし、そこに“安心感”を覚えている方も多いのではないでしょうか。

同時に、シェアリングエコノミーに代表されるように、時代は「所有から共有」へと移り変わっていますから、モノとして所有することへの意識が薄くなってきていることも、サブスクが支持される要因のひとつだと考えられます。また若年層の利用が多い点もサブスクの特徴で、そこには“スマホの普及”も大きく関わっているでしょう。

一方で、サービス提供側のメリットは、安定的な売り上げが立つことです。事業者であれば、その恩恵にあずかりたいと考えるのは当然のことですが、一見シンプルに見えるからこその難しさがサブスクリプションビジネスには存在しています。

"継続的なコミュニケーション"が成功の鍵

——近年、さまざまな事業者がサブスクリプションサービスに参入していますが、すべての事業者が成功しているとは限りません。成功しやすいサブスクの特徴があれば、教えてください。

サブスクリプションサービスにおいて重要なことは、「いかに継続利用してもらうか」です。そのために顧客の利用状況を分析し、サービスを改善していく必要があります。

成功例でいちばんわかりやすいのは、アドビシステムズの定額制製品「Adobe Creative Cloud」でしょう。それまで売り切り型だったスタイルを、5年かけてサブスクリプション型へと移行させました。これが、いきなりではユーザーも受け入れにくかったでしょうが、時間をかけ、さらにサブスクリプションサービスの方がより使いやすく、多機能に設計したことで、自然と徐々にユーザーが定額制へと移行していったわけです。

またAdobe製品を利用する企業や個人事業主にとっても、これまでアップデートのたびに買い換えていた製品が定額になったことで、支出が読みやすくなり、経営の安定化につながりました。つまりアドビシステムズは、誰も損をすることなく、上手にサブスクリプションサービスへと移行を促し、展開することに成功したわけです。

アドビシステムズだけでなく、その他のサブスクリプションサービスを見てみても、「ITおよびデジタルとの親和性は高い」傾向にあります。たとえば映像配信や音楽配信などのデジタルコンテンツの定額サービスも好調です。いつでもどこでも楽しめる。その気軽さがデジタルネイティブの若者たちの心を捉え、その利用者数は拡大の一途をたどっています。

ITサービスとデジタルコンテンツ配信の共通点は、どちらも配送料がない、という点です。そのコストがあるかないかは、定額制だからこそであり、事業者にとって大きなものとなります。

——住んでいる地域によっても配送料は変化しますから、料金設定も難しくなりそうです。では、カタチのあるものを提供するサブスクは、成功しづらいといえるのでしょうか?

一概にはいえませんが、難しいことは確かです。サブスクは設計が命です。いかに継続的に利用してもらい、安定した収益を得るか。その点においては、月額制知育玩具のレンタルサービス「トイサブ!」は、モノのサブスクリプションサービスの成功例といえるでしょう。

同サービスは、おもちゃを宅配便で送り、一定期間貸し出すのですが、その際に、遊び方の解説書とともに、感想を記入できるシートを同封しています。おもちゃを返却する際に、シートも返送することで、お子さんのおもちゃでの遊び方や、どんなおもちゃが好みかといったデータを蓄積し、「好きなおもちゃの傾向」を分析することで、マッチング精度を高めるという試みを実施しています。

これによって、正確なレコメンドが実現し、リピート率も向上することで、「継続利用」につながっているわけです。結果、継続率は97%と、満足度も非常に高いものとなっています。

「トイサブ!」は、知育玩具のスペシャリストが年齢、その子の好みに合わせた知育玩具を選定し、定期的に届けるサービス(画像出典:https://toysub.net/

つまり重要なのは、ユーザーとのコミュニケーションなのです。シャンプーブロー、ヘアケアに特化した美容定額サービス「MEZON」は、サービスを提供するなかで、顧客に対して、「値上げ」の相談もしています。サブスクリプションビジネスにおいて、価格設計は事業の重要なポイントの一つです。価格の改定ができるのも、MEZONの利用者が基本的にはファンのひとりであり、継続的なコミュニケーションができているからこそです。

「MEZON」は、500以上の美容室で、シャンプーブロー、ヘアケアが定額で利用できる(画像出典:https://mezon.jocy.jp/

さまざまサービスを見ていくと、支持されるサブスクには共通点があります。
1.お得感があること
2.悩みの解決になること
3.便利であること 


当振興会では、3つの頭文字を取って「ONB(オンブ)」と呼び、サブスクの三大原則と定義付けています。そこには「ユーザー目線」があります。つまり、顧客想いのサブスクであることが重要なのです。

——サブスクリプションサービスは、話題になりやすいという利点もあります。プロモーションとしての活用も可能なのではないでしょうか?

はい。サブスクリプションサービスをプロモーションの一環として、利用するケースも最近登場しています。

月額8,600円で「野郎ラーメン」が食べ放題になるアプリは、メディアでも取り上げられ、非常に話題となりましたが、収益を考えると、決して割には合いません。しかしSNSで拡散されるなど、そのPR効果は大きく、サブスクを利用したプロモーションの成功事例と呼べるものとなりました。

失敗するサブスクは、ターゲット顧客を見誤っている

——サブスクリプションサービスの活用法も広がってきているのですね。では失敗してしまうサービスは、何を見誤っているのでしょうか?

多くの場合は、顧客の定義や価格を含めた事業の初期段階での設計ミスですね。定額を払うサービスというのは、一種のファンクラブのようなものです。好きだから払う。ですが、失敗しがちなサブスクというのは、新規の顧客開拓に利用しようとするケースに多く見られます。

たとえば、とある飲食店のケースですと、1か月間食べ放題の定額制サービスを始めたことで、店舗に新規の顧客は増えたけれど、同時にロイヤルカスタマーである常連客が利用しづらい状態になってしまった。これでは結果的に顧客離れになってしまいます。それも、これまで飲食店をひいきにしてくれた重要な顧客が離れるという、飲食店としては最悪の結果に終わってしまったわけです。

ようはサブスクというのは、言い換えれば常連客向けのファンサービスのひとつなんです。その延長に、話題性や売り上げの安定化があるのであって、そもそもの目的設定を間違えて「サブスクなら新規顧客の集客から囲い込みまでできる」と安易に考えると、失敗しやすい傾向にあります。

基本的には、サブスク事業は赤字からスタートし、黒字化するまでに数年を要するケースが多く、先行投資もかさみます。そこを見ずして、話題性だけにとらわれると、足をすくわれる結果になってしまうわけです。

——設計の難しさも伴う「サブスクリプションサービス」。今後、どのような進化を遂げるとお考えでしょうか?

今後、スタートアップ企業はもちろん、大手企業も続々とサブスクサービスに参入してくるでしょう。想定されるいちばん大きな規模のものとしては、交通関連の大手企業です。これらの企業は移動インフラだけでなく駅前という資産も持っています。例えばスマートシティ化が進むことによって、新たなモビリティ社会が構築され、電車やバス、自転車などの移動手段は最適化されるとともに、定額化される未来が予想されています。そこからさらに派生して、交通や食、他分野を組み合わせた「サブスクが一元化される未来」も考えられるでしょう。

また最近ではBtoB向けのサブスク「RaaS(リテール・アス・ア・サービス)」という実店舗への出店を手軽に実現するためのパッケージサービスも登場しています。今後はBtoC領域だけでなく、BtoB領域でも「定額サービス」が注目を浴びるようになると考えています。

一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会 事務局長/サブスクマガジン編集長・杉山 拓也さん
ウェブ会議で取材に対応してくださった、一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会 事務局長/サブスクマガジン編集長・杉山 拓也さん

さまざま分野で広がるサブスクリプションサービス。成功の鍵は、目的を見据えたサービス設計をすることにあります。自社の本当のロイヤルカスタマーが誰なのか、適正な価格とはいくらなのか、そういった基礎設計を元にして提供できる価値・解決できるユーザーの悩みは何なのか、をいかにサービス開始前に定義できるかがサブスク失敗を防ぐための手立てとなります。継続利用によってファンを生み出すことができるサブスクは、今後さらに注目を集めることになりそうです。

Written by:
BAE編集部