2019.02.20

VR空間内の新たな市場「バーチャルマーケット」の可能性

仮想現実の世界で交流し、経済を回す「VR市民」

© UTJ/UCL
VR世界から誕生した「Virtual YouTuber(Vチューバー)」が、動画サイトやタレント的な活動で、メディアを大きく賑わせています。最近、このVチューバーなどの影響を受けて、VR空間で過ごすことを楽しむ「VR市民」が増加しており、VRに新たな市場を生み出し始めました。
世界初のVR展示即売会「バーチャルマーケット(通称:Vケット)」の運営に携わるVR法人HIKKYの舟越さんに、仮想世界の新たな潮流について伺いました。

目次

 舟越 靖(ふなこし・やすし)さん
VR法人HIKKY(ヒッキー) 代表取締役 舟越 靖(ふなこし・やすし)さん

「VRの中で暮らす」ためにはマーケットが必要

――2018年8月に行われた、世界初の「バーチャルマーケット(Vケット)」。どのような経緯で誕生したのでしょうか。

まず、2016年ごろに「Vチューバー」と呼ばれる人たちが誕生しました。その中から、キャラクターの可愛さやトークの面白さで人気の有名Vチューバーが登場して、リアルで莫大な広告費を稼ぐスターなども現れたのです。その後、VR機器の普及に伴って「VR市民」が増えていき、バーチャルでのコミュニケーションを形成し始めました。さらに、彼らはVR空間で用いる3Dキャラクターモデル(アバター)やアイテムの売買や配布を始めて、独自の経済圏を築き始めたのです。その大きな試みの一つがVケットでした。2018年8月の第1回には約80ブースが出展。数千人もの来場者が訪れ、Twitterのトレンドにもなりました。本年3月には400ブース以上に拡大して開催します。

――Vケットは、具体的にはどんなイベントでしょうか。

その名の通り、「VR空間のマーケット」です。コミケやマルシェをイメージしてもらうと理解しやすいでしょう。

Vケットは2018年8月に米国発のVRネットワークサービス・VRチャット内で初開催された

個人でも企業でも参加、出展が可能です。出展者はVR空間内のブースで、アバターやその衣装、武器、小物を展示したり、企業が自社のアイテムを販売することも出来ます。Vケットを訪れたVR市民はそれをその場で“試着”でき、ものによっては購入もできます。

中でもお試し版無料、有料版100円の「メロンパン」のモデルは人気でした。2,000~3,000円のアバターを100体前後売り上げた出展者もいます。リアルと同じように、幅広い価格帯が受け入れられています。

ブース内のQRコードから販売サイトにアクセスする。アバターはVR空間での「自分」の姿。より自分好みの姿であることにこだわり、周辺アイテムなども揃える人が多い

——会場に入ると、美しいメインエントランスや個性的なブースの数々に驚かされます。ブースも出展者の創作ですか。

はい。メインエントランスや会場全体はVRアーティストの造形で、ブースのデザインは出展者のオリジナルです。実際に展示会を散策するような、わくわく感がありますね。基本的にこの場は誰でもシェア可能で、私たち主催側は前回と同じく、今回も営利的な権利は主張せず、とにかく楽しんで広げてもらいたいという思想で成り立っています。

“水菜”さん
「Vケット2」は2019年3月8~10日に開催。こちらはVケット副主催の“水菜”さん。「3日間では回りきれないくらい盛りだくさんです!新しい発見と体験をしに、遊びに来てくださいね」

5G以降にVR市民の人口は激増する

——VR世界を楽しむ“市民”が増えているのは、なぜでしょうか。

VR世界では「好きな姿で、好きな場所で、好きなことをする」ことができます。実際に、Vケットの主催者でVチューバーでもある“動く城のフィオ”さんは、家族と過ごしたりする実生活の部分と、仕事の場としているVR空間で過ごす時間のバランスをうまく取っています。
ゴーグルを装着すればボタン一つで出社できますから、物理的な通勤時間がいらず、快適に働けると喜んでいますよ。

VR世界の魅力としてもう一つ重要なのが、アバターを着てVR世界に飛び込むと、リアル世界のアイデンティティとは別の、自分の新しい価値を生み出すことができるという点です。
例えば、リアルの自分とは違うアバターの姿になると、現実世界では発揮できていない自分らしさを表現できたり、現実の自分とは違う個性を発揮できたりもします。本人がコンプレックスと思っていることもVRの中では緩和されたりする場合があるんです。仮想世界でVチューバ―として人気者になる人は、そもそもそのような素質があったのかもしれませんね。

VR世界で過ごしたいという層は、もっと増えるでしょう。現在はやや高額なVR器材を持つ特定の人々の文化のように見えますが、5G回線やBlutooth5.1などの通信環境が充実して、スマホや携帯VR機からVR世界にアクセスできるようになれば、VR人口の大爆発が起こります。それは、たぶん5年以内には実現されるでしょう。そして、今がそのスタート地点にいると考えられます。

バーチャルマーケット2

――“VRで過ごす”という感覚や楽しみが、人々の間で拡大していきそうです。3月開催の「Vケット2」にも、多くの協賛企業等からの注目が集まっているそうですね。

はい。ありがたいことに多くの協賛のご希望などをいただきました。ただ、VケットはそもそもVR市民が快適に過ごすための空間です。SFのようなクリエイティブや、繊細な世界観が支えていますから、私たちとしてはイベント自体の遊び心や自由度、中立性などを失わないように心を配っています。

また、ただ費用をいただいて、広告を出すだけではなく、Vケットの参加者が「面白い!」と思う表現に挑戦することが重要だと考えています。

 

――具体的には、どのようなクリエイティブが求められるでしょうか。

VR世界では、非現実的な表現や演出も可能です。例えば、現実の新車発表会は、展示や動画解説、試乗会などがメインでしょう。しかし、“VR発表会”なら、一瞬にして全てのパーツを分解して見せたり、バーチャル試乗してハリウッドタレントやキャラクターと空中ドライブをしたり、空中でレースをしたりといった、魔法のような体験ができます。ここに、多言語への対応はもちろん、触った感覚を感じられるハプティクス技術などが加われば、予想もつかない表現や広がりが生まれるはずです。

今後のVケットでも、既存の有名キャラクターのビジュアルやアクションを活用したプロモーション展開を考えています。今相談を進めているのは、有名な格闘ゲームのキャラとの対戦を、自分のアバターで“体験”する、といった新しいコミュニケーションです。好きなキャラクターの決め台詞やド派手な技を自ら体現できたら、ファンは熱狂するでしょうし、動画や写真をSNSに投稿したくなるでしょう。少なくとも、僕や友人たちは投稿します。

VRならアバターの「動作」なども、他のアバターに受け渡しできます。VRで活躍できそうなキャラクターの権利を持つ企業やクリエイターは、フェアユースや一部権利解放などに、ぜひ早急に取り組んでほしいですね。

Vケットでは人気漫画家つくしあきひとさんデザインのキャラクター「モクリ」の無料配布版モデル「レッサーモクリ」のアバターが配布されて好評となった。デザインを一部改変して二次使用することも可能
©MokuriProject

VRとリアルを自在に行き来して働ける時代がくる

——VRが生活により浸透していくためには、どのようなことがポイントになりますか。

先述の通り、技術の進化によって、遠からずスマホからコンテンツの充実したVR空間にアクセスできるようになります。また、VR市民自身に、アウトプット先が多数あることにも、無限の可能性があります。

例えば、VRはゲームとの親和性も高いので、ゲームの要素を取り入れることもポイントの一つだと思います。ゲーム内で稼いだ通過を現実世界で使用できるようになったり、現実世界で購入した家具をVRの世界に持っていくといったこともできます。

他にもVチューバ―の社会的活動や、VRイベントの実施などを組み合わせれば、VR内での活動がそのまま現実の生活にも役立つようになり、自然と浸透していくようになっていくでしょう。

――VR世界が順調に拡張していくにあたり、取り組むべきことなどはあるでしょうか。

そこで、私たちが提案しているのが、VR記者会見や発表会などの開催です。
現実世界では、有名ブロガーやインフルエンサー向けの発表会などが定着していますが、VR世界にも多くの人が集まってきており、VR世界での発表会なども同じように強い影響力を持つようになると思います。

先述の通りVRはどんな演出も可能にしますし、Vチューバーに限らずVR市民の中にも文章力や表現力などさまざまなスキルを持った人々がいるため、彼らが興味を持てば、ネット上に新しい切り口での拡散が可能になるでしょう。
特にアニメや映画、エンタメ関連との親和性は高いと思います。

VRのムーブメントを現実世界でどう伝えていくかにも、可能性が見出せます。リアルとVRとの懸け橋になるようなスキルや仕事の需要も増えていくでしょうね。

「VRとVR間だけでなく、リアルとVR間のコミュニケーションも可能です。VRのさらなる活用は、新しいビジネスの創造や生産性の向上に繋がるでしょう」

リアル世界のアイデンティティとは別の、“自分の新しい価値”を生み出すことができるVRの世界。リアルと同じように人が集まり、市場やメディアに対して強い影響力を持つようになってきています。
仮想現実だからこそ可能となる体験型の消費やクリエーティブには、今後、触覚技術(ハプティクス技術)などのテクノロジーの導入が予想され、まったく新しい表現や演出といった広がりも生みそうです。5Gなど通信環境が充実することでVR世界への入口が増え、VR世界にまつわる市場は今後も拡大を続けるでしょう。

Written by:
BAE編集部