2021.04.12

ロイヤルカスタマーを生み出す新時代の潮流「ゼロパーティデータ」活用

顧客理解を深めることで高まる「エンゲージメント」

EUで施行された個人情報の保護を強化する「EU一般データ保護規則(GDPR)」を契機に、日本でも個人情報保護法の改正など、個人情報に関するデータを取り巻く環境が変わりつつあります。

そのなかで、2020年1月、Googleが2022年までに広告目的のCookie利用を段階的に制限すると発表したことは大きなニュースとなりました。“ポストCookie時代”と呼ばれる次なるフェーズでは、「個人が了承したうえでデータ提供を受ける」必要があります。一方で、「同意を得たファーストパーティデータを活用すれば、ユーザーとのエンゲージメントを高める効果もある」と、チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO 加藤 希尊さんは語ります。

そこで重要になるのが、顧客を深く理解するための「ゼロパーティデータ」です。その概要、活用法などについてお話を聞きました。

目次

ポストCookie時代に求められるのは「原点回帰」

——現在、ターゲティング広告で主に使われているCookieは、サードパーティデータのひとつです。今後、個人情報保護の観点から利用が制限される予定ですが、現状をどのように分析していますか。

サードパーティデータとは、自社以外のメディアなどが収集した顧客と直接関係のない主体から収集された情報を指します。ウェブページの閲覧やサイトでの行動情報もそのひとつですね。

この情報を利用したターゲティング広告は、サードパーティCookieが規制されることで、今後縮小傾向になると言われています。しかし、そもそもサードパーティデータを活用したターゲティング広告には課題も存在していました。

サードパーティデータは、閲覧したページなどから、個人の好みを類推するわけですが、私たちは日々、無数のウェブページを閲覧していますし、用途によっても見るページは異なります。結果、ユーザーニーズと本当に合致したターゲティング広告が表示されている割合というのは決して高くありませんでした。

リターゲティング広告は、ユーザーの好みを類推したのち、追いかける。しかしそれが望むものでなければ、当然クリックされない。結果、リターゲティング広告のCV率は、近年、伸び悩んでいました。

広告は「届ける」ことが使命ですが、追いかけ回せば「拒絶」され、さらに嫌われてしまうリスクもあります。費用を掛けてブランドイメージを毀損してしまっては、元も子もないですよね。

となると、サードパーティデータが使えなくなる“ポストCookie時代”に求められるのは、顧客とのつながりの原点回帰。つまり、しっかりと興味喚起をして、ユーザーに求められるコミュニケーションをするということです。

今後、すべての企業にとって本質的な課題である「ブランドの価値」を高めることは、より重要になってくると考えられます。そのためには、顧客がブランドに対してどのような価値を見出しているのか、ブランドへのロイヤルティはどこにあるのかを、顧客視点で理解することが不可欠です。

そこで重要な視点となるのが、「ゼロパーティデータ」活用です。

——ゼロパーティデータについて、詳しく教えてください。

ゼロパーティデータとは、顧客の同意を得て収集したファーストパーティデータを指します。

自社が顧客から直接収集した顧客情報「ファーストパーティデータ」は、メールアドレスや購入履歴、ページの閲覧などが該当しますが、「ゼロパーティデータ」は趣味嗜好など、ユーザーの購買行動や心理に起因するインサイトなどが該当します。さらにそれらをユーザー自らが同意し、企業に提供している情報となります。

取得のハードルは決して低くありませんが、「類推」だったサードパーティデータとは違い、「自己申告」のゼロパーティデータを活用すれば、ユーザーエンゲージメントを高める効果が期待できます。

顧客理解が深まれば、顧客をロイヤルカスタマーへと育成することも可能です。なぜなら、顧客を深く知れば、広告のミスマッチは減りますし、「自分の好みを理解してくれている企業」と認識されることで、ユーザーの愛着も増していくからです。また、ゼロパーティデータと既存ユーザーのデータを紐付けることができれば、「ロイヤルカスタマーを深く理解し、その要素を新規顧客の育成に活用する」“逆引きのマーケティング”を実現することも可能です。

サードパーティデータとは違い、ゼロパーティデータでは完全自己申告の情報のため、正確にユーザー像を捉えることができる

——自己申告であるということは、ユーザーが情報を提供したくなる“仕掛け”が必要ですよね。

はい。ゼロパーティデータを活用するためには、ユーザーニーズを捉えたマーケティング施策が必須です。

その施策は、
「STEP1 Why -なぜそれを行うのか?」
「STEP2 How -どのような手段でデータを収集するのか?」
「STEP3 What -何のデータを収集するのか?」

を分解し、検討することが重要となります。

ゼロパーティデータ施策を考えるうえでのゴールデンサークル

そこで得た情報を活用すれば、表層化していない顧客の行動や心理を可視化することが実現できます。たとえば、「在宅になってから部屋着と仕事着のバランスに困っている」という悩みは、自己申告の情報なしに知ることはできませんよね。顧客の深いインサイトを把握できれば、適切なアプローチによって、購買動機を刺激するキャンペーンを展開することも可能です。

顧客理解を深め、エンゲージメントを高める「ゼロパーティデータ」活用事例

——ゼロパーティデータの活用事例について、教えてください。

では、実際の事例をご紹介します。

事例1:ラコステジャパン

ラコステジャパンは、「真の顧客理解促進」を目的に、オンライン上でゼロパーティデータを収集し、商品提案に活用しました。

ラコステジャパンが行ったゼロパーティデータ施策のゴールデンサークル

ポロシャツといえば半袖シャツが定番ですが、ラコステジャパンでは豊富な種類を取り扱っている長袖ポロシャツも訴求したいという狙いがありました。そこで行ったのが「チャレンジしたい長袖ポロシャツカラー投票」キャンペーンです。ラコステの豊富なポロシャツカラーから次回チャレンジしたい色をひとつ選んで投票。加えて、着用シーンなどもあわせてヒアリングすることで、その情報をもとにユーザーごとに適した「商品案内」を行うことができます。

ラコステジャパンが行った投票キャンペーンのイメージ

さらにロイヤルカスタマー向けに「2020秋冬新作アウターコレクション」というキャンペーンを展開。これはアウターを選ぶ際の好みや、こだわりを答えると、おすすめのアウターが提案されるというものです。これにより、個々のロイヤルカスタマーのユーザーニーズをより正確に把握することにつながりました。

ラコステジャパンが行った診断キャンペーンのイメージ

2つのキャンペーンは、インタラクティブ性を重視した結果、通常のアンケート形式よりも高い参加率を実現。さらに顧客IDと回答を紐付けることで、店舗接客時にも活用できるデータを収集することができました。

事例2:JTB

旅行代理店JTBは、コロナ禍での旅行需要の喚起を目的に、インタラクティブなブランド体験を設計し、ゼロパーティデータを収集・活用することで、旅行需要の掘り起こしを行いました。

JTBが行ったゼロパーティデータ施策のゴールデンサークル

行った施策は、旅行したい都道府県を選び、都道府県ごとに設定された3問のクイズに回答すると、抽選でJTBの旅行券が当たる「47都道府県クイズキャンペーン」というものです。クイズの難易度を高めに設定したことで、SNS上でも活発に発信、拡散されました。この回答を通じて、顧客情報の獲得と、ユーザーニーズの把握を実現しました。

JTBが行った「47都道府県クイズキャンペーン」キャンペーンのイメージ

加えて、ペットと一緒に旅行したいというニーズに着目し、「ペットとしたいこと投稿キャンペーン」を展開。ペットと旅行先でしたいことをアンケートフォームに入力。さらにInstagramに写真を投稿してもらうという内容です。これによって、顧客が飼っているペットの情報を得ることができました。そのデータをもとに、今後ユーザーには「自分のペットと宿泊できる施設」などを案内することで、効果的なマーケティング施策が実現可能になります。

事例3:ニュージーランド航空

ニュージーランド航空は、ニュージーランド以外の便があることを「認知されていない」という課題を抱えていました。

調べてみると、旅行は「食」と密接につながりがあることがわかりました。具体的には、旅先で何を「食べたい」かが、旅行先を決めるうえで重要な要素になっていました。そこで顧客の「何を食べたいか」というゼロパーティデータを収集したのち、ニュージーランド航空のプランを案内することで、同社の認知拡大と利用促進を図りました。

展開したキャンペーンは、「中華とタコス、どっちが食べたい?」という質問に画像選択で答えるだけ。その回答にあわせて、後日、旅行プランがユーザーに届くというもので、数ヶ月で5億円以上を売り上げる成果を収めました。

ニュージーランド航空がゼロパーティデータ収集のために展開したキャンペーンのイメージ

この成功は、「旅先でおいしいものを食べたい」というユーザーのインサイトを拡張することで生まれたものです。

——ゼロパーティデータを通じて、ユーザーのインサイトを正確に把握することは、マーケティングに大きな効果をもたらすのですね。

はい。その効果を最大化するためにはまず、データを収集する目的を設定することが重要です。次に、目的達成のためのゼロパーティデータを収集するわけですが、このとき単に「情報をください」ではなく、ユーザーにとって回答のメリットがあり、かつ楽しめるようなコンテンツに落とし込むことが成功の鍵と言えます。

顧客理解を深めた先に、「愛されるブランド」が生まれる

——ゼロパーティデータを収集・活用することは、“ポストCookie時代”の新潮流になる可能性もありそうですね。

ゼロパーティデータを収集し、顧客理解を深めることは、顧客のロイヤルティを高めることにつながりますし、売上向上にもつながります。またロイヤルカスタマーはSNSでも進んで情報発信する傾向にあるため、認知拡大にも寄与します。

従来のMA施策に加えることで大きな効果を発揮する、新時代のデータ活用の選択肢として、ぜひ定着してほしいと思っています。

ゼロパーティデータ活用は、顧客育成という観点でも有効

——データ活用という視点から、今後オンラインでのコミュニケーションにおいて、何が重要だとお考えでしょうか。

リアルなブランド体験の際には、店舗に行けば、偶発的な出会いがあります。しかしオンライン上では自分で調べるため、“偶然の出会い”が起きづらい傾向にあります。

デジタルはリアルに比べて得られる情報は少ないですが、だからこそ顧客理解が必要であり、デジタル上での体験価値がブランドイメージを向上させるための重要なファクターになると考えています。今後はデータ活用よりも、本質的なブランド価値をいかに高め、伝えていくかが重要な時代になると感じています。そのなかで消費者は「このブランドだから買う」という意味付けが生まれると感じています。

マーケティングは、顧客とのコミュニケーションですよね。ですから、一方的にプレゼントするから「情報ください」ではなく、“楽しい”ということも非常に重要な要素です。さまざまな選択肢があるなかで、いかにゼロパーティデータを収集し、顧客理解を深めていけるか。顧客にとってのブランドの価値を知ること や、何がきっかけでブランドを支持しているのかを知ることで、その先に「愛されるブランド」が生まれるのではないでしょうか。

チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO 加藤希尊さん

“ポストCookie時代”の到来を前に、データ活用を取り巻くさまざまな環境が変化しつつあります。ゼロパーティデータ同様、ユーザーから同意を得てデータを活用する「情報銀行」への期待の高まりも“ポストCookie時代”を見据えてのことです。ユーザーの同意を得たデータは、顧客との高いエンゲージメントを生み出し、正確なマーケティングを実現します。ゼロパーティデータを活用し、これまで表層化してこなかった顧客インサイトを可視化することによって、より深い顧客理解に繋がり、本質的なブランド価値の向上が期待できそうです。

Written by:
BAE編集部